エルフさんの召喚実験、被害者はツヨシくん

他山小石

トンネルを抜けると異世界だった

 エルフさんは悩んでいた。仲間からは天才と称えられてきた。だが実験はうまくいかなかった。

 この手は使いたくなかったのだが仕方がない。

 異世界に続くトンネルから、召喚術を使う。結界を一時的にバンっと破ってお目当ての地球人を引き寄せる。


 あらわれたのは日本人、ツヨシという。

 とにかくこっち来て! と金髪エルフさんの研究所に連れ込まれた。

「何の用なんです」

 エルフさんは、かつて召喚されたニンゲンの残した情報をひそかに研究している。

 後ろ手を組み振り向く。腰まである髪がさらっと流れる。

 白い半袖と金の刺繍が入ったミニスカートから延びる細い肢体。

 身長170センチのツヨシより20センチは低いエルフさん。

 「黙っていたら」かわいい。


「古文書にあったアイスクリームってのを作りたいんだけど」

 情報が少ないらしい。

「この周りの変な物体は? もしかしてアイスクリームを? 作ろうとした失敗作なんですか?」

 疑問形だが、何もかも疑問形。

 魔女の館と言われても不思議ではない洋館めいた研究所。

  周りには黒焦げになったよくわからないものや七色に光る金属も混ざっている。

「うん、するどいね」

 そうはならんやろ。どこからツッコミをいれていいかわからない。


「今までどうやって作ろうとしたんですか」

「レシピ通りに」

「うんうん」

「白黒ナマズと火炎蛙と」

「まてぇええええ!!!」

「なに?」

「そんなもん使わんでしょうが!」

「え? じゃあ爆発ラクダの肝臓にむらさきみみず」

「いやいやいやいや」

 常識的な日本人には馴染みないワードに思わず頭痛が襲う。

 ツヨシは頭を抱えて、フリーズする。

 かわいい顔してメシマズどころじゃないだろ!


「なに? ダメなの?」

「まず!! アイスクリームというものはですねえ!!」

 説明する。食べ物であること。細かい原材料はわからない。

 でも、エルフさんは他人の記憶から再現できるという。

 魔法で原材料を分析して、低温にして、殺菌もして、あれもこれも。

 ようやくできた!

 冷やしすぎて部屋にはつららだらけ。

 でもなんとか完成した。


 ついに、実食! いただきます!

 

「さむい!! つめたい!! でも!!」

 スプーンを握りしめ、エルフは元気いっぱい。

「サイコーー!!」


 ツヨシは横で見ながら元気だなぁ、と思った。

「一つ確認したいんですが?」

「はい、はい! 何の御用でぃ!」

 君そういうキャラじゃないでしょ……。

「俺はいつ日本に帰れるんです?」


 ツヨシの目の前でエルフさんの表情がころころ変わる。

 首をかしげてかわいいしぐさ、顎に手をおいて、眉を顰(ひそ)め始めて。うなづいて、一人で納得した感じだ。かわいいけど、どうした?


「まずは、魔力を貯めて」

「貯めて?」

 スプーンを持つ手にぐっと力がこもる。

「こちらから君の背中を押し出してあげれば、結界をするっと」

 エルフさん、スプーンでテニスラケットみたいにフルスイング。

「じゃあ、やってもらえます?」

 エルフさん、あー、とかいいつつ目をそらす。


「魔力が溜まるまで、うーん。しばらくかかるねえ」

「はぁ」

 ツヨシはため息をつく。


「でも、君がいると! 困ったことに、いろんなとチャレンジがしたくなるからねえ。魔力がなかなか溜まらないねぇ」

「いやいやいや」

 なんでそうなる? アイスに変な成分混ざってたんじゃないの?


「大丈夫! 早く私を満足させれば早く戻れるって寸法よ!」

「今すぐ戻せ!」

 さてさて、2日で魔力がたまり帰ってきたツヨシ。

 もう異世界はコリゴリだよ、とほほ。


 ところがどっこい!


 各地から「この手」の体験を集めて本を作った。

 その名も「召喚被害者の会 ~君の隣に住む迷惑異世界人~」

 なんとベストセラーになった。メディアミックスいろんな印税がガッポガッポ!

 今やツヨシはちょっとしたお金持ちだ!


「おっすオラ、ツヨシ! エルフさん、また呼んでくれよな!」

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エルフさんの召喚実験、被害者はツヨシくん 他山小石 @tayamasan-desu

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