第八話 元奴隷(2)

僕は生まれてからずっと、ギース様の奴隷だった。

 それが普通だと思っていた。

 たしかに、逃げ出せたら、などとは思った。

 でも僕が逃げたらお母さんが死ぬ。

 そう思ったりして逃げることはできなかった。


『おい。何手を止めている。』

『す、すいません。』


 こんなことを5歳から始めさせられていた。

 お母さんはいつからなんだろう。

 そう思いつつもやることはやった。

 でも、失敗した時は。


『なんでこんなに皿が汚いんだよ。』

『す、すいません。今しっかりします。』

『だまれ。』


 殴られた。

 蹴られた。

 叩かれた。

 痛くても必死に痛みを堪えた。

 お母さんは僕が殴られると『やめてください』と言うがお母さんも殴られてしまう。

 たまにだが、お母さんと僕が一緒にいられる時間を与えてくれる。

 ギース様の悪口を言いたいが聞こえているかもしれない。

 そう思うとあまりお母さんと話すことがない。

 そして、お母さんは


『こんなダメダメな母でごめんね。』


 と、言ってくる。

 涙が止まらない。

 こういう言葉を聞くと逃げたくなる。

 でもギース様からは逃げられない。

 奴隷として生きていく道しか僕にはなかったのだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『わ、わかりました。誰にも話したりはしません。』


 僕はこの太ってる男に言った。


『だめよ。レオン。今すぐ逃げて。』


 お母さんはそう言ってるが逃げることはできなかった。

 足が動かない。

 逃げようとするとお母さんが殺される。

 逃げ場がなかった。


『きゃー。』

『黙れって言ってんだろ。レオンだっけ。お前も逃げるなよ。』

『は、はい。』


 このことをきっかけに、元奴隷は奴隷になった。

 

 今日は疲れた。

 あの後、たくさん仕事をさせられた。

 どうにか機嫌を損ねなかったから暴力などはなかったが、これからいつ機嫌を損ねるかわからない。

 注意してやらなければならないな。

 

 いつしか僕は昔の奴隷の時のようになっていた。


 そして、あのふっとた人はニーン=ブルーというらしい。

 どうすれば逃げられるんだ。

 考えた。

 考えたが何も思い浮かばなかった。


 翌日、朝レイが俺の家に来た。


『おーい。レオン早く来いよ。』


 どうすればいいんだ。

  

『おいレオンこっちに来い』


 ニーンに呼ばれた。


『お前、友達と遊んできていいぞ。』

『え?なんで。ですか?』

『怪しまれるだろ。急に行けなくなったとか言ったら。そのかわり他の奴らに俺のことを言ったら、どうなるかわかってるよな?』

『は、はい。わかりました。』


 僕は外に出た。


『レイごめん。』

『あーぜんぜん。早くクルスさんのとこに行こうぜ。』

『うん。』


『おー。きたか。あれレオンなんか今日元気なくないか?』

『えっと家で、』


 言いかけた。

 言えば助かる。

 言えば助かるんだぞ。

 言え。言え。言え。

 何故か口から言葉が出なかった。


『ん?家がなんかしたか?』

『いやなんでもないです。』

『そうなのか。ならいいか。早速特訓を始めるぞ』


 特訓の時何故か頭からニーンのことが消えた。

 楽しいからだ。


『いいな。レオン。初級魔術もようやく安定して撃てるようになってきたな。』

『はい。』


 僕はようやく初級魔術を安定して打てるようになった。

 レイはというと、中級魔術を安定して撃てる練習をしている。

 どうやら中級魔術を安定して撃てるようになるには、初めて撃てるようになった時から半年くらいかかるらしい。


『レイ、レオン、こっちに来い。』

『はい。』


 魔法を2回撃ったくらいのときクルスさんに呼ばれた。


『お前らに教えたいことが2つある。1つ目は魔力を増やす方法だ。魔力を増やすには魔力を使うことが一番だ。レオン、後2回魔法を使ってみろ。』

『えっそしたら、魔力切れになるんじゃ。。。』

『大丈夫。やってみろ。』


 僕は2回撃った。

 あれ?


『あれ?なんでだ。フラフラしない。』

『お前はまいにち俺との特訓で魔力を使っている。だから増えたんだ。』


 そういうことだったのか。


『後1つは無詠唱だ。』

『無詠唱??』


 僕とレイは声を揃っていった。


『詠唱は、魔力を手に込めた後、威力、大きさ、距離などを自動でやってくれるものだ。たしかにこれはすごく便利だが、一つ欠点がある。それは、時間がかかる。戦いの場でいちいち詠唱をしていると時間がない。だから魔術師などは無詠唱で魔法を出しているんだ。やりかただが、手に魔力を込めたあと、形などを想像すんだ。そうすればできる。レイとレオンもやってみろ。』

『でも、僕5回目、』

『安心しろ。多分だが6回は撃てるようになってるはずだ。』


 そういい僕はクルスさんに言われた通りにやった。


『できた!』


 僕はできた。

 レイもどうやらできたらしい。

 便利だな。


『というか、なんでこんなことを今になって教えるんですか?』


 レイがそう聞いた。


『それはな、俺は明日から1ヶ月間お前らと会えなくなる。』

『なんでですか?』

『この街から遠く離れた森ででかい魔物が現れたから、それを討伐しなければいけないんだ。』

『そうなんですか。頑張ってください。』


 そして、そのあとクルスさんと剣術の訓練などをして終わった。


 レイと僕はクルスさんに『頑張ってください!』と言って家に帰った。


 帰ってる途中、レイが『明日一緒に魔術の特訓しねぇか?』と聞いてきた。

 うん。

 と、言おうとしたとき、僕は思い出した。

 家にニーンがいることを。

 でもニーンは遊びにいくのはいいって言ってた。

 でも、もしも僕とかが気の触るようなことを言って、レイにまで被害が及んだらどうしよう。


『ごめん。僕はもう君とは遊べないよ。』

『え?』

『僕は君のその才能が嫌いだ。君は僕に自慢してきてんだろ。どっか行けよ。』


 僕は涙を流しながらレイから逃げて家の方に行った。


『レオン…。ごめん。』


 後ろを向いたらだめだ。

 謝ってしまうから。

 多分だが、後ろには涙を流したレイが立っていただろう。

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