2021 夏

日曜日 自主練と憂鬱

「「「「「「お願いします!!」」」」」」

毎週土曜、千夢中せんむちゅうのソフト部は運動場で自主練。今日は通常なら部活の日曜だが、今日は顧問の事情→なし→休み→もちろん自主練♪とのことで自主練である。

朝9時、雲が時々見える空の下でグラウンド挨拶。ランニング、キャッチボール。

私は、緑の富士山を。他の1年は、2人しかいない先輩か校舎の時計をいつも見つめている。

ああ、15m向こうから、ボールが飛んでくる。表情のないボール。私が唯一、とれるボール。

パンッ‼と音がする。こういうボールほど、私のグローブには吸い込まれる。がっちりとはまる。決して落とさない。

朝なのに運動場にいたカラスが、下を見て小首を傾げた。

「ナイスボール!」

背中にプレッシャー、目の前には自分に対する期待。そんな中で、誰が本心を言えるというのだろう。このボールは、もう3ヶ月と使えない。



春、入部したときは期待していた。運動が苦手、50メートル10秒台。そんな私が、何かを見つけることに。

そのころ交換したての部室はピカピカと輝き、まったく知らなかったこの運動場の一画は秘密基地のような感覚だった。


今。部室など、見ようと思えばいくらでも見れる。サビ、砂、キズ、土。あらゆる類の黒さが目立ち、今まさに新しく、傷をつくってしまった。

「気を付けて。」

笑いながら言うこの先輩に、強くなろうという意思はあるのだろうか。


「ほら、ケガ。」

つい最近、3年生が抜けた。8人の先輩たちは、互いに肩をあずけ、どこまでも続くような草原の真ん中で涙を流していた。

「鼻血がでてる。」

夕の風は一瞬で草を揺らす。雑草は雑音を立て、花は無駄に上下する。

「はい。」

ティッシュをわたしてくれる保護者さん。

「ありがとうございます。」

きっと私ってよりか、ケガをした人に貸したんだろうな。



お昼。みんなが待ちわびる、おやつ交換。

参加している部員たちで各々のクーラーボックスを机にして座り、右に左にとお菓子の入った大袋をまわす。

「はい、これ。」

「はい、これ。」

「はい、これ。」

全員が食べ始めるのに、始まってから五分はかかる。

運動場の端っこ、サッカーゴールの下で、カップ麺、コンビニのパン、お弁当、栄養ゼリー。一人ひとりが、自分の食事に笑って文句を言いながら結局はおいしそうに頬張る。

サッカーゴールの四角い影を邪魔そうに、少し有難そうに上を見て、顔が焼けないように地面を見る。

「うわっ」

アイリが言う。チョコレートの小袋を、何袋か下におとしてしまったようだ。

「はい!食べる~!」

「いや・・・!ここは落とした私が。」

「いやいやいや、他にもちょっと分けろよ。」

運動場の反対側では大人たちが、何かを食べている。目を凝らしていると菓子をゲットしそこなうので私も、と手をあげておく。

「はい、どーぞ。」

袋からガサゴソと適当にとる。ふと確認すると、イチゴ味。

「・・・はあ。」

仕方ない。食べるか。


木々が、弱く少ない風に茂った葉の影を落とす。これでもかと自由すぎる草たちは大きなすれ音を立てていた。

どうでも良い雑音に我慢できなくなったようにカラスが一羽、不器用に飛び去ろうとしていた。


午後、ユリが帰った。キオ、ミノリ、アイリ、カノトとカエデ先輩、それにヒナ先輩が残って、4時まで続ける。

模擬試合、ノック。毎週のように繰り返される時間軸に、私は捕らわれているのだろうか。

この肝心な季節に、校庭の木は切られてしまった。この一画の木は太い幹だけ切られ、あとの枝分かれしたのは短く切られ。唯一の影がないので今はテントで凌いでいる。

頭の中でしきりになる音楽が、「がんばれ」と偽善のように繰り返す。私の前を黒いハチが、虚ろに隣のハチについて飛んでいた。



ああ、結局こうだった。

また今日も、つられて手を抜いてしまった。

結局今日も、他の一年生は”帰りたい”と繰り返していた。

ずっと毎週、後悔に押し潰されている。

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