地球の物は石ころや川の水でも異世界ではお宝。異世界の魔道具は地球では超お宝。世界間貿易で俺は天下を取る。

喰寝丸太

第1話 空間の裂け目

 俺は倉本・舞琉まいる

 25歳の社畜サラリーマンだ。

 ばあちゃんが死んで家を相続した。

 というのもこの家、太い道がないのだ。

 歩いて入る分には問題ないが、車だと入れない。

 道を広げようにも家が建ってしまっていて広げられない。

 土地の価値がほとんどない所なのだ。

 管理費や固定資産税を払うのが嫌なので誰も欲しがらなかった。

 俺は子供の頃に遊びに来てた懐かしい家が、管理する人もなく朽ち果てるのが嫌だった。

 それで俺が貰った。


 水曜日。

 久しぶり休みの日にさっそく行って家に入ると古臭い家の匂いがした。

 記憶にある匂いだ。

 懐かしさに胸が一杯になる。

 どこからかピキピキと亀裂が入るような音がする。

 おいおい、倒壊は勘弁してくれよ。


 どうやら家の裏手から音がするようだ。

 家の裏には小ぶりな倉があった。


 倉に入るとなんと空間が裂けている。

 こんな事があるのか。

 どういう現象だ。


 裂け目の向こう側には森が見える。

 近くにあった10センチぐらいのカエルの信楽焼を裂け目に投げ込んでみた。

 向こう側の地面にコロコロと転がる。

 潜り抜けるのは大丈夫そうだな。


 俺は指先を亀裂に入れた。

 痛くないな。


 腕を入れる。

 全く持って異常なしだな。


 準備を整えて冒険に行くとするか。


 俺はナップザックに飲み物、お菓子、ナイフ、鉈、コンパスを詰め込むと亀裂を潜って向こう側に出た。


 森は普通の森だが、野生動物の気配はない。

 虫の声や鳥の声すらない。


 気味が悪いな。

 引き返そうか。

 いやここまで来たんだ。


 スマホで位置情報を検索すると圏外と出た。

 GPSが働かないって事は別の世界なのかもな。


 コンパスを見ると狂ってないようだ。

 これなら帰るのも容易いだろう。

 念の為、歩きながら木に印をつける。


 しばらく歩いていたら話し声が聞こえてきた。


「♯$%&」


 知らない言葉だ。

 立ち止まっていたら、4人の男女が現れた。

 皮鎧みたいなのを身に着け、斧、槍、剣、盾で武装している。


「やっほー。こんにちは」


 俺は片手を挙げて挨拶した。


「¥*@$#」


 やっぱ通じないか。

 斧を持った男が指輪を差し出してきた。

 付けろと言うんだろうな。

 俺は指輪を嵌めた。


「これで言葉が通じるか」

「不思議だが、分かる」


「あなた様は神様ですか」


 男が尋ねた。


「いやいや、普通の一般人だ」

「そんな訳ないじゃない。この魔力量は異常よ。ドラゴンの何十倍。いえ何百倍だわ」


 槍を持った女がそう言った。


「話が見えないんだが」

「自覚が無いようだ」

「何の自覚だ」


「そこからか。まず魔力は目に見える。お前は物凄く光ってる。太陽より眩しいぐらいだ」


 俺は自分の手を見た。

 別に光ってはいないな。


「見えないが」

「魔力が見えない病気は聞いた事がある。それだろう。可哀想にな」

「見えない物は仕方ない。それで、魔力が多いと不都合はあるか」

「別にないな。国にスカウトされるぐらいか」


 そうか、魔力が多いと強いのだろうな。


「ここで会ったのも何かの縁。俺はクラモトだ。よろしく」

「俺はロバート。パーティ極天のリーダーだ。アタッカーをしてる」

「私はクラウ。アタッカーよ」

「俺はレオン。タンクをやってる」

「私はニッキ。ヒーラーよ」


「しかし、この指輪便利だな。買い取りたいが幾らだ」

「金貨16枚だな」


 金貨は重さでピンキリだが、計算を簡単にするために1枚10万と仮定しよう。

 金貨16枚だと160万円ぐらいか。

 払えないな。

 いや待てよ、金属の値段が異世界でも同じだとは限らない。


 俺は財布から硬貨を出して見せた。


「お前、なんて物を見せるんだ」

「何か不味かったか」

「それって高純度の魔導金属だろ」

「光って見えるのか」

「ああ」


「これで指輪を買い取れるか」

「1枚でもお釣りが出る」


 小銭が大金に化けるなんてな。


「じゃ一円玉で指輪買取だ」

「いいのか、充分なお釣りはないぞ」

「いいさ別に」


「ほれ、ありったけだ。持って行け」


 差し出された銅貨、銀貨、金貨らしきものを手に入れた。

 なんか得した気分だ。


「俺は帰ろうと思う」

「ちょっと待て、こんな物騒な所に家があるのか」

「まあな」

「ついて行っていいか」


 日本まで来られても別にいいか。

 斧なんかで日本が侵略される気がしない。

 それに良い人達みたいだしな。

 取引でも騙そうという雰囲気はなかった。


「ついて来い。こっちだ」


 木の印を辿って亀裂に辿り着いた。


「うひっ。リーダー、これって魔穴だよ」

「分かっている。SSSランクの魔穴だ」

「魔穴ってのはなんだ」

「魔力の吹き出し口で、向こう側に行って生きて帰ってきた者はいない」


 俺の世界は物騒なようだ。

 もしかして、俺の世界の物は全て高濃度の魔力を持っているんじゃないかな。

 だけど認識できないから、利用も出来ていない。

 あると分からなければ利用はされないものな。


「これを見てくれ」


 俺はペットボトルに入ったミネラルウォーターを見せた。


「これは高純度の魔水。これがあれば1万本のハイポーションが作れます」


 ニッキが驚いた表情で言った。


「お近づきの印って事であげても良い。それで、頼みがあるんだ。一週間後、また来るから、その時は街まで連れてってほしい」

「俺は構わないぞ」


「じゃ、よろしく」


 俺は亀裂を通って倉に戻ってきた。

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