One side

ホンビノス貝

第1話 正義、起動!

 俺の名前は『先内まずうち まもる』。の味方だ。俺は、子供の頃に憧れた警察官になって市民の平和と笑顔のために働いている。正義の味方とはそんな意味だ。


「今日は良い天気だな」


 だが、気を緩めるわけにはいかない。油断しているときに事件があったら大変だ。気を「先輩!」い。気をゆ「先輩!!」。緩めるわ「先輩!!!聞いてるんですか!先輩!」…………うるさいやつが来やがったな。


「何だ?」

「あ!やっと気づいてくれましたね!」

「当然だろ。お前はいつもうるせえからな」

「ひどいっすよ~僕が好きでデカい声出してるわけ無いじゃないですか~」


 このうるさいやつは『硬入かたいり 鉄男てつお』。俺の後輩だ。何か考えている時にこいつが来るとたまんねえ。


「で?何の用だ?」

「空ですよ!空を見てくださいよ!」

「空?特に気になる点は無いが……」

「よく見てください!良い天気ですよ!」


 ━━は?

 か。こいつはいつもそうだ。どうでも良いことを俺と共有してこようとする。だが、俺も事を考えていたのは事実だ。これでは怒れない。


「ああ、良い天気だな。それに静かだ。いや、静かと言ったのは訂正する」

「へ?何でですか?」

「お前が来たからな」

「ひどい!!!!」


 ━━こいつを弄るのは楽しいな。


「んで、てつ。なにか出動要請は無いか?には顔出してんだろ?」

「そうですね~僕らへの要請は無かったすね」

「そうか」


 対魔とは『対魔人課』を指す略称だ。だが、参ったな。これじゃいつもと変わらねえ。


まもる先輩?なんか残念そうですね?」

「そうか?いつも通りで良いじゃねえか」

「はぁ」

「それよりパトロール行くぞ」

「あ、はい」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「………………」

「…………♪」

「………………おい」

「なんですか?」

「職務中にゲームをするな……」

「やること無いんですから、良いじゃないですか」


 ━━だからってゲームをして良いわけ無いだろ……


「100歩譲ってゲームするのは良いが周りは見とけ。もし事故ったら危ねえぞ。一生もんの怪我になるかもしんねえぞ」

「先輩の運転を信頼してるんすよ」


 ━━調子のいいやつだな。

 こいつは何に夢中になってやがるんだろうな?くにおくんか?


「どんなゲームなんだ?」

「お!先輩も興味ありま「あるわけねえだろ」ですよね~……。タケノコを集めるゲームです」


 ━━流石にくにおくんのわけが無いか。残念だ。


「たけのこ?そんなの集めて何が面白いんだ?」

「え⁉先輩知らないんすか⁉タケノコあつめ!ニュースにもなってたじゃないですか!」

「たけのこ狩りか?今は旬じゃ無いだろ?」

「たけのこ狩りじゃないですよ!タケノコあつめですよ!今ブームになってるゲームですよ!」


 そう言って俺の顔にを押し付けてくる。


「運転中だから後でな」

「良いじゃないですか~!一瞬こっち見てくださいよ!先輩ならそれくらい出来るでしょ!」

「ははは、無茶言うな」


 ━━こいつと居るとほんとに退屈しない。退だったパトロールも賑やかになったもんだ。


 そこに1本の無線が入る。


「こちら肆課よんかとの戦闘で数名が負傷!至急応援を頼む!」

 

 女性の声でそう伝えられた。


「先輩!」

「分かってる」

「こちら壱課いちかの先内だ。どこに向かえばいい?」

「第B9地区だ!」

「B9だな」


 ━━急がねば。

 その思いが俺を突き動かし、自然とハンドルを握る手に力が入る。ここからなら現場までは5分程度で到着するはずだ。5分程度とはいえ出来る事はある。


「こちら先内。真子まこはいるか?」


 俺は確認を取る。少しの間を置いて反応が返ってくる。


「は~い♡私になにか用?ウッチー♡」

「真子、B9までを届けてほしい。あとウッチーはやめろ」

「そう来ると思って輸送中よ♡褒めて褒めて♡」

「相変わらず仕事が速いな」

「そうでしょ、そうでしょ。私ってば天才なので」

「うわ…この人自分で天才とか言ってるよ…」

「何だ、鉄男もいたの」

「いるに決まってるでしょ!」


 この2人が揉め始めると面倒だ、さっさと聞きたいことを聞いておこう。


「どんなやつが暴れてるかは分かるか?」

「なんでも、モノを拡大するそうよ」

「SNSでも話題になってます!こいつです!」

「運転中だぞ。それに、能力が分かるなら見た目なんて


 そう、問題なのは見た目じゃない。そんなものは現場に着けば分かる事だ。重要なのは能力をどう使っているかだ。


「でも、負傷者が出てるんですよ?ほら、地味な能力の方が強かったりするじゃないですか」

「なら、どんな戦い方をするかは分かるか?」

「動画では投げた車を大きくしてますね。重そうです」

「なるほど、力はそれなりにあるようだな」


 どうやらモノを拡大する以上の能力は無さそうだ。地味だが、確かに厄介そうだ。


「そろそろ到着する。の準備を急いでくれ」

「はいは~い♡」

「現場に到着した」

「もっと早く言ってちょうだい!?」

「前は遅すぎるって言ってただろ」

「極端すぎよ!」

「先輩……流石にそれは……」

「……すまん」

「反省は後にして!1分あれば用意できるからトレーラーに急いで!」


「来たぞ」

「だから早いわよ!」

「状況は?」

「ん」


 真子はモニターを指さす。そこには例の拡大魔人が映っていた。

 ━━なんか顔の横にレンズがあるな。か?

 モニターには頭の位置が少し左側にずれ、右側には頭よりも大きなレンズの付いた魔人が映し出されていた。こいつを使ってモノを大きくするようだな。体もデカい。近づいた方が戦いやすそうだ。そうこう考えていると横で鳴ってたタイプ音が消える。


「ウッチー!準備できたわよ!」

「ウッチーはやめろ」


 最早、お決まりとなったセリフを発しながら車内の一角に向かう。そして定位置に着く。


 「レッツ、モーフィングターイム!」


 車内にエンター音が鳴り響く──────


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ハーハッハッハッ!邪魔するやつはオレ様の力でペッ!シャンコにしてやるぜェーーーーッ!」

「くッ……!応援はまだか!」


 ━━このままでは、私の隊が全滅してしまうじゃあないかッ!私にもっと力があればッ!


「そうは言いますが隊長!あれから5しか経過していません!」

「5分⁉ 50分の間違いだろ⁉」

「いいえ!いいえ5分です!今で丁度6分です!」

「何をくっちゃべってやがるッ!」


 野郎は足元の石を拾い上げると無造作に放り投げる。そして───


「くらえェーーーッ!拡・大!」


 自身の能力でもって拡大、巨大化させたのだ。

 ━━ここで、終わるのか……ッッッ!

 死が迫ってくる、逃げようと思っても足が動かない、それでも必死に這いずる。

 ━━せめて……ッ!せめて……ッ!で死にたいッ!潰れて死ぬのは嫌だッ!それじゃあじゃないかッ!

 辺りがどんどん暗くなる、時間の流れがとても遅く感じる……。これが走馬灯ってやつだろうか?


 自身の死を悟り、瞼を落とす、ただ死ぬのを待つ───



 ───瞼を上げる。辺りはとても明るい。目の前には人の形をしたパトカー。


 ━━パトカー?

 見上げると、そこには全身が無機物で構成された戦士が立っている。


「人々の平和を脅かす悪党!拡大魔人!ここから先は……の時間だぜッ!」

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