第5話 村での一幕

「えー、皿いかがっすかぁ。魔境の木で作った高級品。一枚なんと銀貨1枚」


 何をしているかと言えばようやく村に着いたので皿を売っている。

 誰も買ってくれない。

 ここいら辺りだと物々交換何かが主流だ。

 行商人ですら物々交換だ。

 村人は採れた作物や森の恵みを保存食などに加工。

 それを欲しい物と交換するって訳だ。


 俺は保存食なんて要らない。

 誰かに大きな街まで連れってもらえれば良い。

 馬を貸してもらえればなお良い。


 馬は一財産なので木の皿とでは交換してくれないのだ。

 魔境の木で作った皿なら釣り合うが、その価値を理解してくれる村人は居ない。


 実に困った。

 泊めてくれるかどうかすら怪しい。

 小屋は作ったが、布団で寝たいと思う。


 それに調味料が入った食事だ。

 魔境の森に塩なんて落ちてない。

 肉の丸焼きにはもう飽きた。


「痛たたぁ」


 お爺さんが一人うずくまっている。


「おい、じいさん。今、医者を呼んできてやる」


 村人が駆け寄って声を掛け介抱し始めた。

 爺さんの痛みは酷くなるばかりのようで、ついには脂汗を流し始めた。


「どうするよ。医者なんて3日行った所の街にしか住んでない。金を集めても足りるかどうか」

「俺で良ければ診てやるが」


「あんた医者だったのか」

「いいや。でも特殊な魔法が使える」


「街まで医者を呼びに行ったら手遅れになる。頼むよ」

「じゃ、これでどうだ」


 │A   │B    │

─+────+─────+

1│使用魔力│  400│

─+────+─────+

2│殺菌魔法│=B1/4│

─+────+─────+

3│解毒魔法│=B1/4│

─+────+─────+

4│治癒魔法│=B1/4│

─+────+─────+

5│回復魔法│=B1/4│

─+────+─────+


 爺さんは、うめかなくなった。

 どれが効いたんだろうか。

 医者じゃないから分からん。


「そこいらの藪医者より凄いな。他にも見てもらいたい人が沢山いる」

「ええと、今晩泊めて頂ければ」

「おう、うちに泊まりな。歓迎するぜ」


 俺は治療を始めた。

 腰の曲がったのなんかは治せないが、炎症やウィルスによるものなら治せた。

 幸いにも大病の人は居なかったので助かった。

 癌の患者なんかや難病なんかだと治す自信がない。

 治すより前に診察が出来ない。

 原因が分からなきゃ手の打ちようがない。


 そして3日。

 村の生活が居心地が良くて、つい長居してしまった。


「街まで送って欲しいんだが」

「先生、何か村の生活に不満でもありやすか」

「ないけど戻らないといけないんだ」

「まあ、そんな事を言わずに、先生なら嫁の世話をしてやれますぜ」

「そんなのは望んでない」

「3人までなら、良いですぜ」


 駄目だ話にならない。

 徒歩で出発するか。

 地図もないし帰れるか、はなはだ不安だが。


「騎士様がやって来た」


 村人が知らせに来た。


「年頃の娘を隠すんだ」


 物騒だな。

 盗賊でもあるまいに。

 だが、権力を持っている分、騎士の方がたちが悪いかも知れない。

 そう思い直した。


「先生、お願いしやす。騎士様と交渉なすってくだせぇ」

「見返りに街まで送ってくれるのなら、引き受けても良い」

「お願いしやす」


 俺は交渉の場に赴いた。

 驚いた事に騎士は女性だった。


「この村にはどういう用事で」

「薬草を探しているのだ」

「どんな名前の薬草か聞いても」

「それが分からん」


 どういう事だ。

 探し物の名前が分からないなんてあるのか。


「薬草という事は病人の治療に使うのですよね。どういうご病気で」


 ウィルスの類なら殺菌魔法でちょちょいのちょいだ。


「代々、かかる病なのだ」

「なるほど遺伝子の病か」

「おい、何か知っているのか」


 やべっ、口に出してしまった。

 誤魔化さないと。


「ちらっと本で読んだんだよ」

「どういう題名の本だ」

「忘れた」


「貴様、たわけた事を申すな。知らんと言ったら切るぞ」


 しょうがないな。

 知っている事だけを話そう。


「生物は親から子に性質をある程度、受け継ぐんだ。それを司るのが遺伝子で、これに欠陥があると病気になる。医者じゃないので詳しくは知らん」

「貴様、どこの賢者だ。どんな名医も原因を突き止められなかったのだぞ」

「魔法学園の学生だよ」


「確かにそのボロボロの服には見覚えがある。将来有望だな。私と一緒に来てもらおう」

「病気を治せとか言うんじゃないよな」


「治せ」

「治せなかったら、打ち首とかだったら嫌だ」

「そんな事する訳なかろう。名医を散々呼んだが罰した者は一人もいない。我が主君の名前に誓おう」


「仕方ないか。魔法学園まで送り届けてくれ。それと病人が治ったら、幾つかお願いを聞いてもらう」

「いいだろう」


「それと皿を一枚買ってくれ」

「見せてみろ」


 俺は魔境の森の木で作った皿を見せた。


「ほう、見事だな」

「銀貨10枚は欲しい」

「安いな。一つ買ってやろう」

「まいどあり」


 俺は騎士様と一緒に王都の魔法学園まで戻る事になった。

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