朱邑魔都〜白炎の王〜
月湖畔
序
ゆらゆらと闇が揺れる。
煌々と燃える篝火に映し出された影が砂の上に伸びる。
周囲に巡らされた石壁に平行して立てられているのは朱塗りの柱。
朱は、魔から身を守る神聖な色。
かつて、先人が打ち捨てた土地があった。
眼前に広がる広大な海と年中緑が絶えない森がある。
しかし、人は栄えなかった。
外部との交流がなく厳しい環境ーー人が生きていくには難しい問題があった。
『魔』が住んでいた。
魔は人を惑わし、人をさらい、人を喰った。
生き物ではない魔を人々は恐れ、この土地から逃げた。
名もない土地だけが残った。
くにがある。
かつて捨てられた名もない土地に人が住み、集落となって邑(くに)になった。
邑は四方を石壁に囲まれ、絶えず火が焚かれている。
魔が朱色を嫌うため、邑の至る所に朱色が用いられている。
土に朱色の染料を混ぜた屋根と漆喰が塗られた白い壁に人々が住まう。
邑で唯一朱色の柱で建てられた建物がある。
邑を囲む石壁の四方にある門から踏み固めて整備された道を行くと、大きな朱色の門戸が現れる。
その先にある広い屋敷が邑の長である神官が住まう神殿だ。
邑の祭事や政はすべて神殿で行われる。
神官は世襲制である。その血筋にのみ起こせる奇跡により人々を治めてきた。
魔を除ける火を熾す。
神官にだけできる御業で、捨てられた土地に邑を興した。
この土地では神官は王であり庇護であり守護だ。
そして今代の神官は、魔から身を守る『朱炎』だけでなく、魔を滅する『白炎』を焚くことができた。
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