第四十七話 皇都血戦 23 Side Aria
「アハハァ! やっぱりかっこいい!!」
地を舐めるが如く、低い姿勢で疾走して来るアイザリアに向け、幾重にも重なった積層の氷壁を前面に展開する。
「アアァッ!!」
アイザリアはマチェットを逆手に握り、氷の壁を殴りつけた。
窓ガラスを割る様に、硬質な物が砕け散る音が鳴り響き、次々と氷壁が砕かれていく。
「別にこの壁は、お前との間を、遮る為の物ではないよ」
私は自ら氷壁を貫き、アイザリアの胴体に向けて槍を突き出す。
「――!!」
アイザリアは、突如、反対側から氷を突き破り、現れた槍の穂先を身体に掠らせ、さながら舞いを舞うかの様に回転し、その突きを躱した。
――やはり、身体能力は相当なものだ。
私は手首を捏ねる様に槍を回し、横薙ぎに払うと、アイザリアはそのまま前方――即ち、私目掛けて一気に踏み込んで来て、その掌に纏った毒の力を私に向けて突き出してくる。
「
背中を打たれるのを覚悟の上で、私を殺しに来たか。
「だが、甘いな」
私はアイザリアの肘を掴み、身体を密着させると、その場で強烈に踏み込み密着させた部分……アイザリアの鳩尾に踏み込みの衝撃と、私の体重を乗せ、打ち付ける。
「――ッが!!!?」
車どころか、列車にはねられたような勢いで水平に吹き飛んでいくアイザリアを、シダーが何本もの細い木を生み出し、減速させていく。
ばきばきと音を立て、次々に木々を圧し折りながら、やがてアイザリアは木々に支えられるようにして動きを止めた。
アイザリアを吹き飛ばした際に、私の肩口がヤツの瘴気に触れた為、私のコートがぐずぐずと劣化し、やがてぼろぼろになって、肩口の部分が崩れ落ちた。
――あの瘴気……腐蝕毒だとでもいうのか? 中々厄介だな。ならば、打法はあまり使えないか。
私はコートを脱ぎ捨て、シダー諸共巻き込むつもりでアイザリアに向け、力を解き放つ。
「
私の前方に向けて、視界を埋め尽くす程の、深淵の如く暗き蒼い津波が発生する。
アイザリアは水から逃れようと、高く跳ぶが、私の放つ水量の方が上だ。
すぐに巻き込まれ、アイザリアは深淵の渦に飲まれる。
「
私が眼前の津波を、一瞬にして氷結させると、この空間に一気に静けさが生まれた。
――だが、氷の中のアイザリアとシダーの状態を感じ取ると、仕留めきれては居ないようだ。
「中々の応用力だな」
どうやら、シダーが自らとアイザリアを包むようにして木々を創造し、氷結から逃れているようだ。私は大氷結を解き、シダーの生み出したさしずめ木のバリアを、高圧水流で幾度も撃ち貫く。
やがて、あちこちに裂傷を負った二人が木のバリアから出て来くると、シダーは苛立たしげにこちらを見る。
「これで眷属体とか、冗談キツイっすね……起源の力も異常だけど、素の戦闘能力や、対応力が頭おかしいレベルじゃねえか……」
「……チッ、だから、最初から二人で掛かればよかったのよ。相手は、あのテラリスの起源者なんだから」
どうやら、アイザリアも落ち着きを取り戻したようだ。
騒がれると煩くて敵わんから、冷静な方がありがたい。
だが、実際二人で一度に来られると難しい面もある。
アイザリアの高い身体能力と、対人への攻撃力は高い毒の起源。
そこに、シダーのアシストと、防御力が加われば攻めあぐねるのは、想像に難くない。
足を止める事は難しくは無い。先程の様に、広範囲を氷結させれば、奴等にそれを解く術は見た限りでは無さそうだ。
だが、この後に戯神の横やりも考えられる……できれば戯神とこいつ等との、三対一という状況は避けたいところだ。
となればやはり、この二人はなるべくなら殺すのがベターか。
そう思考を巡らせていると、突如、頭上で激しい振動が発生した。
「――っ、今度はなんだ……?」
地震が頭上で起こるのは、流石におかしい。
地下空間とはいえ、感覚的にそれ程まで深い位置では無いはずだ。
とすれば、戯神かまたは、第三者の仕業か……。
眼前の二人は何か力を行使した気配は無い。正直なところ、これ以上対応しなければいけない事象が増えるのは好ましくないんだがな。
「何かが来る前に、片付けれればいい話なのだろうが」
「あんまり、舐めないでよね。お姉様」
私の独り言に、アイザリアが過敏に反応した。シダーも、木の起源の力で、棒を作り出し構えている。
今度は、やはりシダーと二人がかりで来るつもりのようだ。
――その時、先程よりも大きな振動と爆発の様な音がこの空間を揺らす。
攻め気になっていた二人も堪らず、態勢を崩した。
やはり、何かがこちらに向かってきている。
……あまり時間は取れないな。
「
私は槍を地面に突き刺し、足元から次々と、鋭い氷柱をせり上がらせる。
部屋を埋め尽くす勢いで氷柱を展開し、それ等はアイザリアとシダーに殺到する。
体勢を崩していながらも、シダーが樹木を錬成し、二人はその樹に持ち上げられる様にして、氷柱を回避した。
だが、その樹に向けて、氷柱の間を縫う様に間合いを詰めていた私は、全力で前蹴りを放つ。
蹴りの衝撃に千切れる様にして、圧し折った樹木は勢いで半回転し、二人は頭から落下してくる。
普通なら、態勢を取り直し着地するのが関の山だろうが、アイザリアは私に、マチェットの尖端を私に向けながら突っ込んでくる。
半ば想定通りの動きだと思い、槍をアイザリアに突き上げようとしたのも束の間、シダーは自らの態勢をとり直さずに、幾重にも絡めた蔦を錬成し、私の槍が地に縫い止められた。
「チッ……!!」
私は盛大に舌打ちし、蔦に向けて高圧水流を発生させ、蔦を切断するが、シダーも負けじと蔦を錬成し続け、切断が間に合わない。
槍を手放し、優先順位を変え、アイザリアの攻撃を回避しようと、戦術の変更を余儀なくされた時、私の腕に蔦が伸びて来て、ついには私自身が蔦に絡めとられた。
自由落下で迫るアイザリアが、にやりとその口元を歪めた。
ならばと、私は無事な方の腕をアイザリアに向ける。
「
「させねぇ!! ……ごぶっ!?」
途端、伸ばしていた腕が蔦によって真後ろに引っ張られる。
シダーは顔面から、せり上がる氷柱の隙間につっこんだ。
――しかし、これでは……!!
私は高圧水流をアイザリアに向け放出するが、その水流を受け流すようにマチェットを当て、体の向きを変えた。
だが、肩口と太腿を水流に貫通されて尚、アイザリアの攻撃を止める事はできない。
――しくじったか……。
私が眼前のマチェットの鋒と、歪んだ笑みを浮かべるアイザリアを見据え、覚悟を決めたその時。
先程よりも大きな振動と共に、天井が崩壊し、その瓦礫よりも速く……銀色の煌めきが、私の前に割り込んだ。
「ごめんアリア! 遅くなった!」
銀色の煌めきは、『銀嶺』リノン・フォルネージュ。
私の相棒その人だった。
リノンは、太刀でマチェットを防ぎ、真上に伸び上がるように蹴りを放つと、肉を突き破るかの様な音とともにアイザリアを吹き飛ばす。
「んぐっ!!」
割れた天井の穴の縁にぶつかり、アイザリアは少し離れた場所に落ちると、受け身を取り立ち上がった。
どうやら、窮地は脱した様だが……全く、いいタイミングで現れてくれるものだ……。
「全く、遅いですよ、リノン」
私は薄く微笑むと、こちらを見やる相棒に苦情を入れた。
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