第二十九話 皇都血戦 5 Side Rinon
白銀の命気を纏わせた太刀を、銀の残影を残す程の疾さで、縦に一閃。思い切り振り抜く。
――我流、
私の太刀筋に従って、白銀の命気がうねりを上げた大波のように、部屋の中を蹂躙する。
テーブルごと吹き飛んだ料理の数々と共に、白銀の荒波がリヴァルに向けて迸った。
「ははは! なんだその力は! まさに銀嶺の名に相応しい技だな!」
命気の波が哄笑するリヴァルに直撃し、この部屋の壁を盛大にぶち破り、リヴァルの背後に大穴を開ける。
もうもうと瓦礫の粉塵が立ち込め、視界が著しく悪い状況となった。
「手応えはあった……けど」
――粉塵の奥から、球体状に展開された魔法陣の様なものが現れ、その中で笑う無傷のリヴァルが現れた。
「流石、博士お手製の結界だ。だがこのエネルギー残量では、後二回程しか使えんか」
パキンとガラスの割れるような音ともに、リヴァルが纏っていた魔法陣が消滅した。
行雲流水を発動した私の技に耐えるか……。いや、アリア達起源者に匹敵する存在ともなれば、それ程の道具を作る事も可能かもしれない。
「少なくとも、後二回は波濤並の技を無効化出来る。という訳か」
ともなれば、効率的には命気の消耗の高い技を使うのは良くない。できれば普通に斬り込んで結界を発生させたい所だ。
となれば──。
――歩法、
太刀を納刀し、私はリヴァルに緩急をつけた歩みで、接近していく。
不可視化された鋼糸が私を狙うが、私はヤツが鋼糸を振るう際に動かす筋肉の動きを見切り、都度命気を眼に送る事で、打ち出される鋼糸の流れを見切っていく。
丁寧に管理されていた床や壁が、細切れになって割れ散り、空間が広くなると共に屋敷が倒壊する可能性も頭に入れなければいけなくなってきた。
「やはり俺の糸を認識しているな! お前の愛故のコトだろうが……」
「ちょっと黙ってくれるかな」
私はリヴァルの戯言を遮り、コートのポケットからベアリング弾を取り出し、鋼糸の隙間を縫い指弾を放つ。
銃弾の如き速度で放たれるベアリング弾は、リヴァルに命中する直前で、驚くべき事に素手ではたき落とされた。
「そんな攻撃も出来たのか! だが、俺には通用しないなァ! ……さぁ早く、お前の愛を俺に届かせてみろおおぉ!!!」
「チッ……」
素手に鋼糸を巻きつけ、指弾を防いだのか。おかしいなりに頭は回るようだ。生半可な攻撃では弾かれかねないと言う事か。
――歩法、瞬。
指弾を防ぎ出来た隙に、強烈な踏み込みで一気に間合いを詰める。
残影を残す程の速度で間合いを詰め、リヴァルの眼前で半身になり、身体を捻った居合の構えから鍔元を指弾の要領で弾く。
――攻の太刀二の型、驟雨。
私の移動による風圧がリヴァルに届くと同時、私は神速の一閃をリヴァルの首を目掛けて振り抜く。
「――!」
先程の魔法陣の様な結界が発動し、私の太刀は大きく弾き飛ばされる。
「ハハ! 全く反応できなかったぞ!」
「苛つく結界だね……。それ、売ってるとこ教えてほしいくらいだよ」
後ろに弾かれた太刀を引き戻し、正眼に構えると、背後からぞろぞろと先程の傀儡達が室内に入って来た。傀儡達は驚くべき事に宙を飛ぶ様に浮かび上がると、私に向けライフルを構える。
「全く、悪趣味な技だよね。それ!」
「お前を殺した後、死体を操って素晴らしき新婚生活を送る為に編み出した技『
「背筋が寒くなるね。本当に」
指揮者のように、リヴァルが両腕を振るうと前方からは不可視の鋼糸、背後からは数多の銃弾が私に殺到する。
(逃げ場は……ないか。ならば)
「
私は自分の身体を包む様に白銀の命気を纏うと、背後の銃撃を無視し、リヴァルの鋼糸のみを太刀を振るい捌く。
銃弾が次々に私の身体に命中するが、強力な命気がそれを弾き、銃弾を跳ね返す。
連続して引鉄が引かれ、しつこく私を銃撃してくるが、命中しても私に痛痒をもたらす事はない。
「本当に、強力で卑怯とすら言える異能だな! それは!」
「そいつはどーも!」
連続して振るわれる鋼糸を次々と捌くが、銀光套衣を展開している間は、他に命気を使う技を使う事はできない。消耗も大きい技だから、なんとか接近して、リヴァル本人に攻撃をしなければジリ貧だ。
その時、背後の激しい銃撃にも劣らない程に激しく振るわれるリヴァルの鋼糸による斬撃に、僅かな隙間が生じた。
私はその間隙を縫う様に身体を捌き、リヴァルに刺突を放とうとして――左肩に鋭い痛みを感じ、思わず飛び退いた。
「――ッ! なんだ……?」
「視えないだろう。この糸は、特別なんでな」
糸……と言う事は、不可視化した鋼糸が私を切り裂いたのか。
だが、不可視化された鋼糸は見切っていたはずだが、今のは全く見えない……いや見えないどころか感じる事も出来なかった。
風切り音も、殺意の線も、第六感的なものにも掛かる事なく、私の身体を捉えていた。
銃撃をも防ぐ銀光套衣を破った事もそうだが、むしろ銀光套衣を纏っていなければ、おそらくは相応の深手を負っただろう。
だが、気のせいだろうか? 今の糸の斬撃から予測される攻撃の出元はリヴァルではなかったようにも感じた。
「これは、お前への愛の試練だ」
リヴァルは両腕を広げ、大仰に私を見つめ笑う。
「別にキミに試練なんか課されたくなんてないんだけど」
「強情な女だ。……いい加減に認めたらどうだ?」
「好意は嬉しいけど、私はまだ恋愛なんかにうつつを抜かすつもりはないんだよね!」
リヴァルの軽口にはいい加減にうんざりしてきた所だ。
私は肩の傷を、銀光套衣の命気が癒やしていくと共に、太刀を正眼に構え直した。
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