#17 傷痕

#17 傷痕


「でな」


紗奈に優しく言われて通話ボタンをタップしてからスマホを耳にあてる


「もしもし...」


「深結、すっごく申し訳ないんだけど...今日家に来てくれないかな?」


唐突なお願いに少し驚いたが返事に迷うことはなかった


「良いよ、何時ぐらいに行けば良い?」


「お昼過ぎくらいかな」


「わかった、楽しみ」


「うん、本当急でごめん」


「気にしなくて良いよ、私も颯太の家に遊びに行けるのは嬉しいし」


「ありがとう」


通話を終えて紗奈の方を見ると


「楽しんでおいで」


「........」


颯太の家に行けるのは嬉しい、でも素直に喜べない自分もいた


「...いいのかな」


「どうして?」


「なんかさ...颯太は私のことを好きになってくれたのに、その私に自信を持てないことが申し訳なくて」


「成瀬君はきっとそうは思ってないと思うよ、だから大丈夫。楽しんでおいで」


紗奈は両手で深結の肩を軽く叩いた


「ほら、笑って」


紗奈は人差し指で深結の口角を上げる


「辛い時とか悲しい時はねこうして無理矢理笑顔を作るとなんか笑えてくるの」


「ん..うん」


深結はうまく喋れず吃ってしまう


「ふふっ、可愛い」


紗奈の言葉に少し照れる


「その表情、成瀬君にも見せてあげな」


「えっ..」


「深結、成瀬君の前だといっつも緊張しててぎこちないから」




颯太の家に向かう。


緊張して鼓動が早くなる



「あっ!深結!」


颯太は家の前で待っていてくれていた。インターホンがあるのに何でわざわざ外で待っていたのか不思議に思ったがすぐに分かった


「わざわざありがとう」


「良いよ、気にしないで」


「その...お願いがあって」


「どんなこと?」


「最近、妹が学校に行けてなくてずっと部屋に引きこもってて...そしたら深結に会いたいって言われて」


「妹さん私のこと知ってるの?」


「前に一緒に撮った写真を見られたことはあったけど...」


「まあ、私に任せて!」




妹さんの部屋のドアをノックする


「颯太さんの彼女の深結です、良かったら一緒にお話しませんか?」


返事の代わりにドアが開いた


「私なんかのためにごめんなさい...」


その声で深結は気がついた、颯太の妹はついこの前深結が河川敷で声をかけた子だった。


「あの時の、子..だよね?」


「そうです、今日は急にごめんなさい」


「ううん、気にしないで」


深結はゆっくりと近づく


「そういえば名前はなんていうの?」


「成瀬彩夏(なるせさいか)です」


「彩夏ちゃんか、可愛い名前だね」


「その....」


「お話聞かせて」


深結の言葉で彩夏は俯いた顔を上げた


「ありがとうございます」


彩夏はお礼を言ってお辞儀をした後に話し始める


「その...お兄ちゃん心配してましたか?..」


「どっちかていうとしてたかな」

「でも彩夏なら大丈夫!って感じだった」


「やっぱり....私なんか..お兄ちゃんと違ってなんにもできない」


彩夏は泣き出してしまった


「そんなことないよ」


深結は彩夏の頭を優しく撫でてあげる


「私なんか私なんか...」


その言葉に深結は昔の自分を重ねた


「彩夏ちゃん、良かったら私のお話も聞いてくれないかな?」


「これね私のリスカの痕」


深結は袖を捲って手首を見せる


「すごく痛かった、でも何回も..何回も切った」

「誰かに解ってもらいたかった、認めてもらいたかったの」


「私も...」


涙を拭いながら彩夏も手首を見せた、そこには深結同じように傷痕があった


「この傷も少し前までは大っ嫌いだった。でも親友ができて颯太と恋をして今はこの傷も私なんだって変な話かもしれないけど愛おしく思ってる」


「私にもできるかな?..」


「できるよ!だって私にもできたんだもん、彩夏ちゃんなら絶対できる!」


「深結さんはどうしてそんなに自信が持てるんですか?」


「自分のことなんか大っ嫌いだよ」


少し笑いながら話す


「でもそんなふうに見えないですよ!」


彩夏は笑った。深結は嬉しくて話を続ける


「颯太はねそんな私のことを否定も肯定もせずに共感して受け止めてくれたの、だから好きになった」


「お兄ちゃんは昔からお節介で..でもね優しかった、大好きだった。でも何でも出来ちゃうお兄ちゃんのことが次第に嫌いになった」


「わかるよ、劣等感って痛いよね」


「心がずきずきして苦しくて吐きそうになる」


「私もそうだったよ、ううん..今もかな」


「深結さんはどうやって自分と向き合ったんですか?」


深結は返事を迷った


「今も..向き合えてないな....でも、こんな私を好きになってくれた颯太を裏切ることはしたくないなって思ってる」


「私は何を想えば良いんですか?」


「それは私にもわからない、でもきっと見つかる」


「じゃあ、深結さんのことを想っても良いですか?」


深結はその言葉に声が出なかった


こんな自分が誰かの支えになんてなれるのか?

こんな自分が誰かの支えになって良いのか?


自問自答を繰り返す


「......今、私なんかが彩夏ちゃんの支えになんてなれない、なっちゃいけないって...」


正直に言った、きっとこの言葉は彩夏ちゃんを傷つける。


「なんか元気でました」


予想外のセリフに顔を上げる


彩夏ちゃんは笑っていた


「彩夏ちゃんは強い子だね」


「強くなんかないです..」


「なんか彩夏ちゃん少し前の私みたい」


二人はいつのまにか姉妹のように話していた。



「二人ともー、お菓子持ってきたよ」


颯太が部屋に入って来た


「あっ!お兄ちゃん、ありがとう」


彩夏はお礼を言ってお菓子がのったトレーを受け取ると深結と彩夏の間に置いた


「深結さん、食べてくださいっ!」


可愛らしく言うと


「仲良くなったみたいで良かった」


と、颯太が言った


「お兄ちゃんも一緒に食べよ」


彩夏がそう言うと


トレーを囲むように颯太も座った


しばらく雑談して日が落ちてきたところでお開きにすることにした


「暗くなってきたし、そろそろ私帰るね」


深結が立ち上がると


「送ってくよ」


颯太も続いて立ち上がる


「お兄ちゃんカッコいい〜」


彩夏が茶化すように笑うと


「いいだろ、べつに」


颯太が言い返す


「仲良し兄弟って良いな、私一人っ子だから羨ましい」


「じゃあ深結さんにお兄ちゃんのことあーげる!」


そう言うと彩夏は颯太と深結の手を掴んで無理矢理手を繋がせた


二人は頬を赤らめながら見つめ合った


「やっぱり、二人はお似合いです」



「じゃあ行こっか」


「うん、じゃあ彩夏ちゃんまた今度お話ししようね」


「はい!」


彩夏ちゃんに手を振ってから颯太と二人で部屋を出た。


帰り道。


「私が彩夏ちゃんとお話ししてる間ずっと部屋の外で聞いてたでしょ?」


「ご..ごめん」


「良いよ、気にしないで」


「苦しくなかったか?」


深結は自分の過去を完全に受け入れられていない


深結は彩夏と話すにあたって自分の過去を抉った、それは深結にとって辛くて苦しいことだった。


「バレちゃったか」


深結は足を止める


「私は大丈夫だから..」


深結は足をふらつかせて転びそうになる


「大丈夫か」


颯太が慌てて深結を抱きしめて落ち着かせる


でも華奢な深結の体は颯太の腕をすり抜けて地面に座り込んだ


颯太もしゃがんで深結と視線を合わせる


「ごめん深結、無理させちゃったよね」


深結は首を横に振った。



「深結...?」


颯太の声に反応しない。

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