#6 再発
#6 再発
「いろんな感情がぐちゃぐちゃになっちゃって..また...」
「ゆっくりで大丈夫だよ」
何度もゆっくり深呼吸をして荒れる息を整えた。紗奈はとなりで手を握ってくれた。その手を握り返してもう一度口を開く
「最近、症状が出ることはなくても、ほんの少しのきっかけで思い出すようになって、それで...」
「もう...生きるのは、いいかなって」
先生は少しの間の後、言ってくれた
「私は深結ちゃんの味方だから、また一緒に頑張ろ!」
そう言われてまた一つ爆ぜたような気がした
「ごめん紗奈、ちょっと外で待っててくれる?」
「うん..深結がそう言うなら」
紗奈は不安そうにしながらも深結の手を離して診察室から出ていった。
「私のせいで紗奈にもお母さんにも迷惑かけて、私に価値なんて無い。そんなことずっと前から分かってたはずなのに、認めずに今日まで生きてきました。でも、それももうおしまいです。」
先生も言葉に迷っているようだった。
「でもさ、紗奈ちゃんは深結ちゃんのこと大好きだと思うんだ。それってすごく素敵じゃない?だからさ自分に価値を感じられるようになるまでは紗奈ちゃんのために生きるっていうのはどう?」
折衷案だ。それを聞いて訳も分からず涙が溢れてきた。
「ダメですよ、私なんかが生きちゃ...私なんか..」
先生が優しく深結の肩に触れて言った
「周りになんて思われたって良い。正直になってごらん」
さらに涙が溢れ出てきて息が詰まりそうになりながら深結は答えた
「私...本当はなんにも大丈夫なことなんてないのに誰にも迷惑かけたくなくて大丈夫って嘘ついて更に苦しくなって..その繰り返し。それじゃいけないって分かってるのに.......」
深結は両手で顔を覆って腰を曲げて蹲った。顔と手の僅かな隙間から溢れ出た涙が床に落ちた。
「じゃあその気持ち、紗奈ちゃんに伝えてみない?」
先生は椅子から降りて深結の前にしゃがんで視線を合わせてから言った。
「できるかな?」
「深結ちゃんならできる!」
先生はガッツポーズで背中を押してくれた。
診察室のドアを開けてすぐそこの椅子に座っている紗奈に声をかける
それに気づいて立ち上がる
「今から全部言うから、受け止めて」
深結は紗奈に深く抱きついて、話し始めた
「本当のこと。なんにも綺麗なことなんて無いし、傷つけてしまうかもしれない。それでも良い?」
「良いよ」
紗奈は深結の背中に手を回して抱きしめた。
「ずっと怖かった辛かった。誰にも言えなかった。私って馬鹿だよね。何回も手を差し出してくれていたのに私はそれを払い続けた」
「馬鹿なんかじゃない。馬鹿なんかじゃないよ。深結は頑張った、すっごく頑張った。だから後は私とか先生とかお母さんとかに頼って」
「うん」
また涙が溢れてきた。でもきっとこの涙は今までと違う。嬉しくて泣いているんだ。
「全部言ってくれてありがとう」
紗奈の言葉はそっと深結を包み込んだ。
「先生ありがとうございました!」
深結は深くお辞儀をして、それに続いて紗奈もお辞儀をした。
帰り道
「さっそく一つ相談なんだけどさ、良いかな?」
両手の人差し指の先をつんつん当てて、少しもじもじしながら言う深結見て紗奈は
「なーに?」
深結の方を見て紗奈はいたずらっ子みたいに笑った。それでも少しも嫌な気がしなくてむしろ言葉が出やすくなった
「成瀬君..のこと...なんだけど」
「好きなの?」
心臓が破裂するかと思った。
「べっ..別にそういうのじゃないから!!」
「もー!深結、ばればれだよ!」
「やっ..やめて!それ以上は言わないで!!!」
顔が赤くなっている、直接見なくてもそう直感した。
「好きだよ、心の底から。大好き」
紗奈は驚いていた。きっと思ってた返事と違ったのだろう。現に深結も驚いている、自分がこんなことを言えるなんて思わなかった。
「それでさ、今週の日曜日に一緒にテスト勉強しよって誘われて....」
「それって.....」
紗奈は息を呑んで深結を見つめた
「デートだよ」
その言葉にぽかーん口を開いた。数秒の沈黙の後
「そんなんじゃないからっ!」
嘘だ。実際に"デート"という気持ちは心のどこかにあった。でも一緒に勉強するだけだしとどこかでそれを否定していた。
「あれれ〜、深結顔赤くなってるよ」
紗奈は声のトーンを少し上げて茶化すように言う
「だって..わからないんだもん。デートとかしたことないし.......」
深結は急に弱気になった。
「私が教えてあげる」
それに反応するように紗奈を見た
「私もデートとかしたことないけど...てへへ」
笑って誤魔化すが、深結にとっては力強かった。
「ありがとう」
深結はお礼を言った。顔は笑っていなかったと思う、でも無理して笑わないと決めたからそれでも良いんだと思い直した。
「じゃあ洋服とかも買いに行かないとね」
二人は並んで歩いた。揺れた手が触れ合ってそのまま繋いだ。
「明日は楽しいかな?」
深結が口を開いた
「わからない。でも深結がそう望むなら、きっと楽しいよ。明日も。明後日も。ずっと。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます