第11話 大型スライムは玉座の代わり
猫耳族のみんなは、斧や剣を使って大木をぶった切り、木材に加工し、凄い勢いで建物を作っていく。
とはいえ、百人近くいる猫耳族それぞれの家を建てるには時間がかかる。
だからまずは共同で使う仮の住居を五つ建てる計画だ。その中にベッドを二十個ずつ並べ、集団で寝泊まりして雨露をしのぐ。
その仮の住居は、なんと一週間で四つも完成した。たんに手慣れているとか、技術が凄いという話ではない。大工仕事にかんしてド素人の私でも分かる。
猫耳族の身体能力が、メチャクチャ高いのだ。
そりゃもちろん私とセシリーのほうが強いけど。明らかに一般人とは比べものにならない。斧を木の幹に振り下ろせば、私の想像の五倍くらいめり込む。木材を運ぶのが早い。高いところに移動するのにハシゴを使わず、ぴょんとジャンプする。
動きが獣じみている。
こんなに強い猫耳族を村から追い出したゴブリンってどんなゴブリンだ。
もしかしてエルダー・ゴッド・ウォーリアのゴブリンより、ずっと強いのか。
今後この世界で生きていけば、いつかはゴブリンと遭遇するだろう。そのときは雑魚と油断せず、慎重に対処しなければ。
と、私は気を引き締めようとしたが、すぐに緩んでしまう。
目の前に広がる光景が、かわいすぎるのだ。
「ぷににー」
「ぷにっぷにー」
「ぷにぷににーん」
スライムたちがプニプニと走り回っている。三十匹はいる。癒やしだ。
そのスライムたちに、猫耳族が声をかける。
「おーい、スライムさん。ハンマーを取ってくれ」
「ぷに!」
「そこのスライムちゃん。この丸太を運ぶの手伝ってくれない?」
「ぷーに!」
という感じで、スライムは建築のお手伝いをしている。
実に実にかわいい。
そもそも猫耳族からして猫耳をピコピコさせてかわいいのだ。そこにプニプニを混ぜたらかわいいの二乗だ。尊い。
「スライムってどうしてこんなに和むんだろう……」
私がそう呟くと、お尻の下から「ぷにに?」と声がした。
スライム・ロードのアオヴェスタだ。
アオヴェスタは仮の玉座として、私の椅子になっている。柔らかくて座り心地がいい。アオヴェスタ自身も私を上に乗せるのが好きらしいので、このまま真の玉座にしてもいい。
まだ村とも呼べないこの拠点が発展し、いつか魔王城と呼ぶに相応しい城が建ち、その玉座の間でアオヴェスタに座って偉そうにする私……想像したらあまり威厳がないな。
玉座については、いつかちゃんと考えよう。
「はぁぁぁ……癒やしですねぇメグミ様。ゲームではあまり意識してませんでしたが、こうして目の前でスライムがプニプニしていると、心が浄化されていくのを感じます。スライムたちに包まれたいです」
私の横に立つセシリーが、溶けかけのチーズみたいなトロンとした顔を浮かべていた。
「そんなに包まれたいなら、包まれたらいいじゃん。アオヴェスタ、スライムたちを呼んで、セシリーの望みを叶えてあげて」
「ぷに。ぷにーん!」
アオヴェスタは、ほかのスライムたちに指示を出す。
それを聞きつけたスライムたちが、プニプニとこちらに向かってきた。
「はわわわ! 本当にスライムに包まれてしまいました! どうしましょう、私、もうここから動けません……はうぅ」
スライムの上に寝転がったセシリーの上に更にスライムが乗っかり、サンドイッチのようになった。あれは気持ちよさそうだ。うらやましい。
「ぷにっにー」
私の心を読んだのか、アオヴェスタがスライムに新しい指示を出した。
そして私はセシリーと同じ状態になった。
「ふぇぇ……私は今、溶けている……」
魔王の威厳ってなんだ?
そんなもの欠片もいらない。
私はこのままスライムと一体化する。
「ちょっと。困りますよ、メグミ様、セシリー様。スライムを二人で独占しないでください。彼らが協力してくれないと、作業の効率が落ちるんですから」
ファレンが文句を言ってきた。
「ごめんね……でも少し待って……はぁ……プニプニだぁ……」
「メグミ様。そんな我儘を言わず、今すぐ返してあげましょうよ。彼らは仕事をしてるんですよ?」
「じゃあまずはセシリーがスライムから抜け出してみなさいよ」
「それは無理な話です……ぷにぃ……」
「だよねー……ぷにぷにぃ……」
「駄目だ、この二人。自分をスライムだと思ってる……」
ファレンは呆れ果てたという表情で私たちを見下ろす。
普段なら誰かが私にこんな態度を取ったら、セシリーが「メグミ様になんて失礼な!」と怒るところだ。が、今は脳が溶けきっているのでまるで反応しない。だらしない奴め。私も同じだけど。
「……私は魔王なんだ。スライムに包まれて和んでいる姿は似つかわしくない……まして民の仕事の邪魔をするなんて……アオヴェスタ! 魔王メグミの名において命じる! スライムたちを大工仕事に復帰させよ!」
「ぷににぃ?」
「構わん、やれぇぇっ!」
「ぷに!」
私とセシリーの周りにいたスライムたちが一斉に、働く猫耳族のところへ走って行く。
ああ……素晴らしいプニプニの感触が去ってしまった。
「メグミ様……私、辛いです」
「た、耐えるんだ、セシリー! 私たちの犠牲の上に拠点が発展すると思えば本望じゃない!?」
「ご立派ですメグミ様……それでこそ魔王の鏡……」
セシリーは涙ぐむ。
するとなぜかファレンまでもらい泣きする。
「くぅっ……こんな立派な王に仕えることができて幸せです……お二人の犠牲を無駄にしないため、働いてきます!」
これって雰囲気に飲まれて感動してるけど、あとで冷静になるやつだな。
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