第119回 君の顔では泣けない その4

 続きです。


—―結局、俺と田崎はうまくいかなかった。要因はたくさんある。本当に小さなことの積み重ねだったと思う。埃が電化製品を緩やかに破壊していくように、細かなひびが少しずつ入っていって、そして割れた。どちらが悪いというわけではないと俺は思っているが、田崎が本当のところどう思っているのかは分からない。結局最後は碌々ろくろく顔も合わせず別れてしまった。—―(君の顔では泣けない P.177)


 私も読みながら心配していましたが、主人公とまなみが頻繁に会っていた事がかなり影響したようです。いくら特別な事情があるとはいえ、やはり若い男女ですからね。


 なにせまなみの親に主人公と結婚するのでは、と誤解されるくらいですから、彼氏としては相当やきもきした事でしょう。


—―水村はまた恋人が変わったらしい。今度は男と付き合っているという。水村の愛情は男女平等に注がれている。世界が二倍に広がるからお得じゃん、とうそぶいている。—―(君の顔では泣けない P.183)


 さりげなく書かれていますが、すごい話ですね。まなみは今男の体になっていますので、男同士で付き合っているのです。残念ながら詳しい描写はされていません。


 BL好きの方にとってはもどかしいでしょう。私もけっこう好きなのでやはり残念です。


—―「結婚して、涼。お願いだから、結婚して下さい」

 涼が戸惑うように、その大きな手のひらで俺の頭をゆっくりと撫でる。こんなときですら、涼は何も訊かない。今はそれが何だかやたらと寂しかった。

 こんなに寂しくて、苦しくてつらいのに、やっぱり涙は一滴も出てこなかった。

—―(君の顔では泣けない P.211)


 「涼」は主人公の旦那です。


 何と! 主人公の方から逆プロポーズ(?)でした。草食系の主人公としては意外な展開でしたね。

 父親(本当の。今はまなみの)が亡くなり、更にまなみとも決裂(?)したさびしさからのようです。


 いつまでもうじうじと元に戻りたがる主人公と、新しい人生を積極的に生きようとするまなみが衝突したのです。


 まなみとは後に和解しました。


—―「蹴る! 蹴ってるわ、これ! すごいよ、すごい脚力」

「ええーいいなあ、私もその感触味わってみたい。早く出たいって言ってるのかもね」

「おうおう、早く出てきてくれよ。母ちゃんはもうこの腹に飽きたよ」

「母ちゃんだって。うける」

「だって母ちゃんだもん、俺」—―(君の顔では泣けない P.237)


 主人公は妊娠しました。妊娠中の様子はつわりや胎動等、かなり詳しく描かれています。それだけに出産がないのが残念。


—―「俺、入れ替わったのが水村で良かったと思ってるよ」

 自然とその言葉を口にしていた。水村がきょとんとした顔で俺を見る。そして、それ私も今言おうと思ってた、とにやりと口元を歪める。嘘つくなよ、と軽く肘打ひじうちする。—―(君の顔では泣けない P.245)


 結局最後まで元に戻る事は出来ず、おそらくこれからも入れ替わったままでしょう。


 でも、誰にも言えない事を言い合えるという、素晴らしい関係を喜びつつのハッピーエンドです。こういう終わり方もあるのですね。


◇◇◇◇◇◇



 読んでいただきありがとうございました。


 もし、なる程と感じる所がありましたら、ぜひ★評価や♡評価とフォローをお願いします。


 よろしければ、私の代表作「妻の代わりに僕が赤ちゃん産みますっっ!! ~妊娠中の妻と旦那の体が入れ替わってしまったら?  例え命を落としても、この人の子を産みたい」もお読みいただけると嬉しいです。

https://kakuyomu.jp/works/16816927860596649713



 次の第120回は「徴産制」です。お楽しみに。

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