第100回 文豪たちの口説き本 その3

 ついに本作も100回目を迎えました。文字数にして23万字。ここまで続けて来られましたのもみなさまの応援のおかげです。ありがとうございます。



 次は中島敦です。「山月記」「光と風と夢」「弟子」等の著作を持つ小説家です。この方も33歳という若さで亡くなっています。死因は喘息悪化との事。作家という職業はつくづく短命の人が多いなあという感じですね。


「実はやさしい中島敦」と称されています。その恋はとても情熱的です。お気に入りの女性、橋本たかには許嫁いいなずけがいました。それでも諦めずにアプローチを続け、射止めます。たかを口説くだけでなく、許嫁との交渉を続け諦めさせたとか。素晴らしいですね。


—―《略》たか。別に君の心を疑って居るわけではないが、もう一度聞くよ。怒らないでおくれ。たか。お前、ほんとに、どんなことがあっても、僕と一生、一緒に居る積りかい? 僕がダラシない人間で、意志の弱い、身体まで弱い人間だということ。従って、お前と結婚してからも、お前にどんなにか迷惑をかけるかも知れないこと。(経済的にも)それを、承知で、一生、僕の面倒を見てくれるかい? ほんとによく考えて、お前自身の損得ソントクも考えてから、ハッキリ答えておくれ。—―(文豪たちの口説き本 P.155)


 あらあら。女性に対して「一生、僕の面倒を見てくれるかい」ってこれ逆ではないのでしょうか?


 男は女性の前ではともすればカッコつけたくなるものですが、ここまで自分の弱さをさらけ出せるというのもまた、いい関係なのかなとも思います。


—―たか。

 手紙見た。お前の気持ちは、ほんとに嬉しいと思う。僕なんかには、もったいない位な気がする。お前はまだ知らないんだ。僕が、どんな悪い人間かということを。僕は今まで全く、悪い人間だった。(みんな僕の弱さから来て居ることだが)お前に話したこともあるけれど、話さないこともある。全く、僕には、お前の僕にたいする愛が、もったいないと思われるんだ。それは、僕もお前を愛しては居た。けれど、愛していながら、やっぱり、お前にすまないことばかりして居たんだ。いずれ、お前に逢ってから、お前にみんな話して、びをしよう。そして、その時、もし、お前が許してくれたら、僕達は結婚しよう。—―(文豪たちの口説き本 P.156)


 どうやら敦はたかの他に女性がいたようです。それが「詫び」という事だそうです。


 最後は作品の雑誌連載が決まり、これからと言う時に持病の喘息が悪化して、たかに背中をさすられながら息を引き取ったそうです。短い命ではありますが、愛する人に看取られ、いい人生だったのではないでしょうか。



 次は国木田独歩です。この人も結核で38歳で亡くなりました。やはり作家というのは長生きするのが難しい職業なのでしょうか?


 恋の相手は佐々木信子。身分の差をものともせず、射止めます。しかし、結婚生活は長続きしなかったそうです。更に再婚します。「モテ男だった国木田独歩」と称されています。



 最後、オオトリを飾るのは谷崎潤一郎です。「痴人の愛」「春琴抄」「細雪」等の著作を持つ小説家です。この人は学生の頃に国語で勉強していた時から、既にエロい人だと学校の先生までもがおっしゃっていました。今回改めて読んでみていかにエロい人だったのか再確認です。


「年をとっても健在」と称されています。文豪にはめずらしく長寿です。79歳は今でこそ長生きとは言えない年齢ですが、当時はここまで生きられる方は少なかったです。特に男性としてはかなりの長生きですよね。しかも40歳以上も年の差のある女性に惚れこんだり。義理の姪を相手にした禁断の恋というおまけ付きです。本当にお盛んですなあ。


—―しかし誤解を遊ばしては困ります。私に取りましては芸術のためのあなた様ではなく、あなた様のための芸術でございます、もし幸いに私の芸術が後世まで残るものならばそれはあな[た]様というものを伝えるためと思召して下さいまし。勿論もちろんそんな事を今直ぐ世間に悟られては困りますが、いつかはそれも分る時期じきか来ると思います、さればあな[た]様なしには私の今後の芸術は成り立ちませぬ、もしあなた様と芸術とが両立しなくなれば私は喜んで芸術の方を捨ててしまいます。—―(文豪たちの口説き本 P.189)


 三番目の妻、根津松子への手紙です。

 いや~熱いですね。あの谷崎潤一郎が芸術を捨ててしまうとまで言わせるなんて、どんなに魅力的な女性だったのでしょうか。


—―東京でいろいろ買いたいものがある由、僕は自分の物を買うより楽しみです。遠慮なく僕をスポンサーにしてください。—―(文豪たちの口説き本 P.204)


 こちらは40歳以上年下の義理の姪、渡辺千萬子への手紙です。さすがにこの頃はあっちの方は若い頃のようにはいかないのか、色々な買い物をしてあげるという形でアピールしていますね。男はいくつになっても女性の前ではカッコつけたい生きものなのでしょう。


—―「千萬子百態」と云う題にして君一人だけのアルバムを作りたいと思います《略》—―(文豪たちの口説き本 P.209)


 オリジナルアルバムですか。精力が下がるとイメージ力が上がるというのは私くらいの年齢でも実感しますね。若い頃のように体は思うように反応しなくなりますが、妄想力は膨らむ一方です。


◇◇◇◇◇◇


 読んでいただきありがとうございました。


 よろしければ、私の代表作「妻の代わりに僕が赤ちゃん産みますっっ!! ~妊娠中の妻と旦那の体が入れ替わってしまったら?  例え命を落としても、この人の子を産みたい」もお読みいただけると嬉しいです。

https://kakuyomu.jp/works/16816927860596649713



 次の第101回は「はじめての」です。お楽しみに!

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