第40回 愛がなんだ その1
「愛がなんだ」は、角田光代の小説です。女優の岸井ゆきの主演で映画化されています。
岸井ゆきのと言えば、少し前までは多くの作品で重要な助演で出演していました。例えばドラマ「99.9」では松潤こと松本潤からじゃけんにされる役とか、ドラマ「私達はどうかしている」ではヒロインの当て馬役とかが印象的でした。
美人ではないですが、独特の味のあるいい女優だと思います。「愛がなんだ」の主人公テルコはまさにはまり役ですね。
この映画は大ヒットしており、今年はけっこうドラマや映画で主演するみたいです。
主人公のテルコが、仕事や友人を失くしてまで好きな男に執着する姿を描いた片想いの物語です。
角田光代は他にも「八日目の蝉」等、多くの実写化された作品を持つ人気作家ですが、人気作家ゆえアンチも多いですね。この作品もアマゾンレビューを読むと「共感出来ない」という意見がけっこうありますが、どんだけ恵まれた恋愛してるんだよと。
私はこの話には心から共感しました。
まあ、確かに仕事や大切な人間関係をなくしてまで男に執着するのはちょっと行き過ぎかもしれませんが、本気で好きになったらそれくらいしても不思議ではないと思います。
個人的に特に印象に残った箇所をいくつか引用します。片思いの物語なのでエロい話はごくわずかですが。
—―言いなりになる、とか、相手がつけあがる、とか、関係性、とか、葉子はよく口にするが、それらは彼女の独特な人間関係観、もしくは恋愛観である、と、私は思っているので、えへへ、と
「悪いこと言わないから、やめときな、そんなおれさま男。また前と同じことになるよ。もっと自分が優位にたてるような恋をしなよ」—―(愛がなんだ 文庫版 P.20)
葉子はテルコの友人。映画版では元乃木坂46の深川麻衣が演じました。実際それくらい美人でモテそうなキャラです。だから恋愛観も過激に強気です。
とはいえ、「自分が優位に立てる」ような関係ならば、私ならばそれは恋愛ではないと思いますがどうでしょうか。
マモちゃんがテルコの意中の人。映画版では俳優の成田
恋愛観をごくシンプルに2分するならば、「愛したい派」「愛されたい派」に分かれるのではないでしょうか。テルコは典型的な「愛したい派」で、葉子は「愛されたい派」かと。
みなさんはどうですか? できれば両方がいいですが、私はどちらかといえば「愛したい派」ですね。自分から好きにならないとダメですね。
—―「でもさ、変なこと言うけど、すごくさみしいときってないすか?」蕎麦から顔をあげ、酒で顔を赤くしたナカハラくんが突然口を開いた。「でも」がどこに続くのかがわからなかったが、私は黙ってうなずいてみせる。「だれでもいいから電話したいとか、だれでもいいから今酒が飲みたいとか。特定のだれかに会いたいってんじゃなくて、ほんと、マジだれでもいいって、そんな気持ちで携帯のアドレス眺めてるときとかって、テルコさん、ないっすか?」
「まあね。あるけどね。部屋で一人で飲んでたりすると、十二時とか一時がやばいかな。何ていうわけじゃなくて、今日犬触ったとか、テレビつまんないとか、そういうことしゃべりたくなったりする」
「でしょ? なんていうのか、そういうときに、いつでも呼び出してもらえるようなところにいたいんす。べつに、いつもぼくじゃなくていいんだ。もうほんと、今日はなんでかほかにだれもいねえよってときに、あっ、ナカハラがいんじゃんって、思い出してもらえるようになりたいんす」
私はナカハラくんの空いたグラスにワインを注ぐ。これはナカハラくんが買ってきたものだ。きっとナカハラくんも奮発したんだろう。
「私たち、なんかストーカー同盟の反省会って感じ」—―(愛がなんだ 文庫版 P.95、P.96)
ナカハラは葉子に片思いしている男です。葉子はそれをいい事に彼を徹底的に振り回します。大みそかの夜にナカハラとテルコを家に呼んだ葉子は、なんと2人だけ家に残してコンパに出かけてしまうのです。先ほど引用したシーンは、大みそかの夜に取り残された2人の会話です。
この2人はどちらも片思いに苦しんでいるという点は同じですが、その決着の付け方が大きく違っています。
ナカハラはついに葉子が決して振り向いてくれない可能性が高い事を悟った時、身を引く決意をしますが、テルコは驚きの手段を使ってまで執着するのです。
さて、少ない性描写です。と言うか
—―「あんたのおれさま男の話聞いてると、あいつを思い出してむかつくんだよ。何をえらそうに人を呼びだして、とか、何を勘違いしてほかの女連れてきて、とかおもうわけ。しかもあのパーティのときのあいつでしょ? ちびっこい、ガリで地味な顔だちの、(以下自粛)」
(中略)
「エッチ下手そうな男でしょ?」
「エッチも関係ないじゃんか」
「前戯ねちっこそうな」—―(愛がなんだ 文庫版 P.122)
自粛と中略箇所、さらにこの後で男性器の俗称が計4回使われています。
◇◇◇◇◇◇
読んでいただきありがとうございました。
次の第40回は引き続き「愛がなんだ」の秘密に迫ります。
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