お経だけで不死者も魔族も魔物も昇天するのだが? そして何故か女人は性天するのだが?

しょうわな人

第1話 大往生

 西暦二〇一九年、一人の僧侶が大往生した。


 その僧侶が居たからこそ、各国首脳は日本に手出し出来なかったと言われた程の人物だった。

 人々から大聖阿闍梨と称された僧侶は大勢の仏弟子に見守られ、百二十年の生涯を閉じた。



『フワーッ、やっと昇天出来た。思えば堅苦しい生活だったなあ。誰かが勘違いした所為で大聖阿闍梨なんて言われて、毎日毎日大講堂で説法して、それが終わると大本堂で経を唱える。極楽浄土ではそんな生活からはオサラバ出来たら良いなあ。好きな本を読んで、理想の女性と出会えたりしたら最高なんだけどなぁ』


 百二十年の生涯を閉じた僧侶は見た目が若返った魂魄こんぱくの状態で、極楽浄土へと向かっていた。偉人と呼ばれる自身の心の中の煩悩ぼんのうを、誰にも聞かれない安心からか、大声で喋りながら。 


 しかし【ソレ】を聞いていた菩薩様がいた。名を地蔵菩薩と言う菩薩様は実は今ある事に悩んでいた。ソコで、見事なまでに【清廉な煩悩の塊魂魄こんぱくだった僧侶を見て、そしてその魂魄こんぱくが深い部分では極楽浄土って退屈そうだなと思っているのをてとり、悩みを解決して貰う事にした。


 幼子に変幻へんげして僧侶が通る道中で声を出さずに涙をただただ流す地蔵菩薩様。それを無視出来る様な僧侶では無かった。


『こんな所で滂沱ぼうだしてどうしたのかな? あっ、しまった。声をかけたけど、お兄ちゃんが見えるかな?』


 己が魂魄こんぱくだと声をかけてから気がつく僧侶。勿論、この幼子は菩薩様なので僧侶が見えている。そして、


『あのね、あのね、お家がね、悪い人や怪獣に奪われそうなの。お兄ちゃん、助けてくれる?』


 涙を流しながらもしっかりと喋り、どうやら自分が見えているらしい幼子に違和感を覚えながらも、肉体を持たない自分では助けてやる事が出来ないと思い、せめて子供を優しく導く地蔵菩薩に祈ってあげようと経を唱える僧侶。


『オンカカカビサンマエイソワカ』


 唱えた瞬間に意識が無くなり、その場から消えた僧侶。後に残った地蔵菩薩が、一言呟いた。


『うん、上手くいった』


 その一言を残して地蔵菩薩もその場から消えた。

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