読書編

 そもそも「小説投稿サイトなのにこれを一発目に持ってこないのはどうなんだ」というツッコミはさておき。

 私はもはや習性と呼べるレベルで書物を買い集めております。

 その様の一端はこちらからご確認いただけますので、どうぞご興味がありましたらご覧ください。


【自分用】今週買った本

https://kakuyomu.jp/works/16816452220490490022


 さて。

 ごくごく自然に自作の宣伝も終えたところで、本題へ参りましょう。

 なお、ジャンルはすべてないまぜにしてお伝えしますので、どうぞご容赦ください。


① ゲーミングお嬢様(漫画)


 いきなりそれかよとか思われそうですが、間違いなく2021年で一番衝撃を受けた作品です。

 平成以降生まれの方にはピンとこないかもしれませんが、格闘ゲームという(あえて文化と表現する)が流行し、老若男女がゲームセンターという場所へ集い、果てはゲームセンター以外の場所――薬局や駄菓子屋、ホームセンターの店頭など――で、格闘ゲームに興じるという時代は確かに存在したのです。まさしく、格ゲーこそがトップ・オブ・ザ・ホビーの時代が。


 今でこそプロゲーマーなどともてはやされる時代でありますが、当時はゲーム=悪、ゲーセン=不良の巣窟といった時代でした。もっとも、その認識は半ば間違いでもないのですが。

 しかしそんな時代において、世間の逆風を意にも介さず、称賛を与えられることもなく、ただ「誰よりも強いのは俺だ」という信念プライドのみで戦い続けた男たちのドラマがあったのです。登場人物はお嬢様ですけど。


 いずれはそんな格ゲーを元にしたドラマを創作したいと思っている私ですので、格ゲーを題材とした作品は積極的にプッシュしていきたいと思っております。

 なお、格ゲーを題材としつつもう少し一般向けに表現された『対ありでした。 〜お嬢さまは格闘ゲームなんてしない〜』という作品もございますので、よろしければそちらもどうぞ。版元はカクヨムの母体であるKADOKAWAですし(ゴマすりダイレクトマーケティング)。


② テスカトリポカ(小説)


 おおっと、偶然にもKADOKAWAの話題が並んでしまったぁー(棒)。

 白々しい忖度ダイマはともかく。


 第34回 山本周五郎賞受賞+作第165回直木賞受賞作という、各界激賞の本作でありますが、そのような文芸的評価はさておき。

 この作品には、とにかく読ませる腕力があります。続きが気になるから読みたいではないのです。とにかく読ませられるのです。

 なんせ、登場人物のどいつもこいつもロクなモンじゃなく、救いなんかありゃしない世界なのです。そんな世界を生み出しておいて、作者はいったいどのように落とし前をつけるつもりなんだ――などと、ちらとでも思ってしまえばもうお終いです。その瞬間、あなたの背後には古代アステカの神が居座り、この作品の結末まで強制的に引きずり回すでしょう。


 そして、ひとつだけ注意しておきます。

 この作品は、決して深夜に読んではいけません。

 朝日が昇ったとて、それが救いの光であるとは限らないからです。

 作品のダークな部分と相乗し、人間の暗黒面に打ちのめされること必然なのです。


 ですが。

 それでもなお。


 人の心の光を信じずにはいられない、そんな作品でもあります。


③ 京極夏彦講演集 「おばけ」と「ことば」のあやしいはなし(講演集)


 私のような京極フリークの方はよくご存知だと思うのですが。

 この作家、とにかく弁が立ちます。

 あらゆるところで様々な講演を行い、その場所で必ず京極ワールドを発生させるのです。それゆえに、「言霊ことだまつかい」などと称されることすらあります。

 そんな「言霊遣い」が語る講演の文章化ですから、面白くないはずがありません。京極夏彦そのものに興味がないとしても、言葉とは、文化とは、概念とは何か――ということを考えるのに、非常に役立つ一冊であります。

 ただし、こちらも読み込むにあたって、ひとつだけ注意点があります。


 この書籍の冒頭には、こんな一文があるのです。


「僕は小説家です。独り黙々と文章を書くのが仕事です。平素より口を利く機会は極めて少ないわけで、喋ること――まして人前でお話することなど、得手であろうはずもありません。(はじめに より抜粋)」


 嘘をつけ嘘を!

 あらゆる場所でさんざん講釈を垂れていたのはどこの誰なのだ!


 と、ツッコミたくなるのは必然です。

 つまり、この人の言うことを盲目的に信じてしまえば、それはもう言霊遣いの術中に落ちているということなのです。

 参考にはなります。

 ですが――常に自分の頭で考えることは怠ってはいけない。

 そんな教訓も得られる一冊でございます。


 なお。


 私は言霊遣いではありませんが、嘘つきではありますのでご注意を。


④ 太陽の塔(小説)


 大学生必読ともいうべき森見登美彦のデビュー作。

 SF作品ということで読まず嫌いをしていたのですが、その過ちに気付かされた逸品です。


 氏の作品は『夜は短し歩けよ乙女』のほうがもてはやされている感はあるのですが、個人的にはこちらのほうが大学生という存在のどうしようもなさ、思春期モラトリアムのくだらなさ、そして若者の一途さを表現していて好みです。

 作中の舞台である京都自体には、高校の修学旅行で行った程度の想い出しかないのですが、そこで当時の意中の人と幸運にも想いを通じ合うことができたので、京都は私にとって恋の都でもあります。

 だったらなおさら『恋は短し~』のほうに思い入れが出そうなものですが、たぶん想いの一途さは『太陽の塔』のほうが上だと思うのです。そのせいで大概ひどいことになってますけど。


 過去の想い出それはともかく。


 この本を読むまで、私にとって青春小説ジュブナイルとは村山由香や乙一作品のような、若さと切なさを前面に押し出した、誰もが心揺さぶられる物語のことを指していました。


 ところが。


 この作品を読んで以降、「若さとは滑稽さ」「滑稽ながら全力をかけるのが、若さゆえの一途さ」という思考を手に入れました。

 つまり、思春期の主人公は皆の憧れヒーローではなくてもよいのです。「馬鹿だなぁ」と笑い飛ばせるくらい、懸命な普通の人であればいいのです。

 振り返ってみれば、私の十代後半~二十代前半など、滑稽さの塊でした。今思い返しても、思い返すだけ馬鹿馬鹿しいくらいの馬鹿でした。どうでもいいことに悩み、傷付き――ですが間違いなく、今よりも真剣に生きていました。それだけは誰にも馬鹿にさせません。


 さて、この作品を知ってしまった以上、私はもはや真摯な「だけ」の主人公による青春・恋愛小説を創作することは叶わないでしょう。それはすなわち、世間的に受け入れられる若者の姿を破棄したことに等しいと言えます。

 年相応の懸命さと、同じだけの滑稽さを併せ持つ人物。

 それが今後、私の求める理想の主人公像となりました。

 これは非常にありふれた、だけれどのそのぶん困難な若者の姿です。それゆえに、主人公として描くにはきっと、並々ならぬ努力が求められることでしょう。

 私のような未熟者にそのような苦行を科した森見登美彦氏には、いずれぜひ責任をとっていただきたいと思います。


⑤ 見果てぬ花(エッセイ)


 私がエッセイという分野において、比肩するもののないほど敬愛する作家、浅田次郎氏珠玉のエッセイです。

 本来は2020年に発売されており、また私もその存在は知っていたのですが、発売当時は手を出すには至りませんでした。

 理由は簡単で――この本がハードカバーだったからです。

 非常に個人的な話になるのですが、そもそもエッセイというものは肩ひじ張らず、気軽に読みたいものなのです。古来、エッセイの走りである『徒然草』ですら、


「暇だからどうでもいいこと書くわ」


的なノリなのですから、腰を据えて挑むものではなかったのでしょう。

 となれば、本の形態は手軽に持ち運べる文庫本が好ましいのです。なにより、ハードカバーは寝ながら読むと、落下時のダメージが甚大なものになりますし。

 そんなわけで手を出しあぐねていた「ハードカバーのエッセイ本」だったのですが――気まぐれに立ち読みしたのが運の尽きでした。


「子供の時分から手先が妙に器用であった。

 取柄はそれだけだったと言ってもよいぐらいで、いきおい得意な科目は家庭科、針を持っても包丁を握っても、先生から指名されて模範演技を披露するのはきまって私であった(次郎の厨房 より抜粋)」


 冒頭の一文ですが、誠に秀逸であると思います。

 確かな自慢とかすかな自虐、それに加え「それでどうした?」という興味を惹かれる、絶妙な書き出しであるのですから。


 余談ですが、私は現在、エッセイなるものを著してはいません。

 理由は単純で、未だ何物でもない私のような者に、誰も興味なんてないだろうと思うからです。

 ですが、まかり間違っていずれエッセイを書く日が来るならば――きっと浅田次郎氏のエッセイを手本とするでしょう。泣けて笑えて感動できる氏のエッセイは、他のどの作家が書いたものよりも面白いと私は思うからです。


 なお。


 浅田次郎氏はエッセイ『勇気凛凛瑠璃の色 四十肩と恋愛』あとがきにて、こう語っています。


「キワモノである。下品である。悪意と偏見に満ちている。全然やすらぎを与えない。すなわち、エッセイの本義にもとる」


 どうやら私が手本とするものは、エッセイ界の非常識のようです。

 そんな最新の非常識エッセイ、ぜひ皆様にもお楽しみいただきたいと思います。




   *




 創作者の面目躍如というわけではありませんが、やはり本に関して語ると長くなってしまいますね。もう少し要点を簡略にお伝えできればよかったのですが、力足らずですみません。

 ですが、ここにあげた五作品は、各分野においていずれ劣らぬ良作ぞろいですので、ご興味のある方はぜひお手に取ってみてくださいませ。

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