1月19日 おおかみレストラン

 とある森では動物たちが仲良く暮らしていました。その森にはとりわけおいしい料理が食べられるレストランがありました。おおかみレストランです。お店の名前の通り、おおかみがコックさんをしています。初めのうちはおおかみのことを怖がって誰もそのレストランに訪れませんでした。

 しかし、ある日のことです。おおかみが料理を作っているレストランだとは気付かず、うっかり入った動物がいました。それは、はらぺこねずみでした。おおかみは腕を振るって料理にありったけの力を注ぎます。

 おおかみはねずみが座るテーブルにできたてのパスタをおきました。

「さあ召し上がれ」

 ねずみは恐る恐る口にパスタを運びます。するとその時でした。

「これは今まで食べたなかで一番おいしいかもしれない!」

 ねずみは幸せそうに、にっこりと笑みを浮かべています。それを見たおおかみも自然と優しい笑顔になりました。

 それからというもの、このおおかみレストランは森で噂となりました。次第に噂は広まり、怖そうなおおかみが優しい味の料理を作るということで有名になりました。

 良い評判を耳にしたくまは、このレストランに訪れることに決めました。このくまは森で一番賢いということで知られています。

「スープをお願いします」

「はい、かしこまりました。すぐお持ちします」

 おおかみはすぐさま作りたてのスープをくまのテーブルおきました。くまはゆっくりと具だくさんのスープを口に入れます。きっとおいしいと言ってくれるだろうとおおかみは思っていました。

 しかし、おおかみの思いとは裏腹にくまは何も言いません。黙ってくまはスープを飲み終えると、おおかみに言いました。

「ごちそうさま。……別にまずいわけではないんだけどね、おおかみくん。私が年寄りだから、かもしれないけど、少ししょっぱすぎないかね? このスープ」

 今までおおかみは料理のことではほめられたことしかありませんでしたから、このようなことを言われ、おおかみの心はひどく傷つきました。

「うるさいうるさい。どうせ料理も作れないやつが味付けに口出すんじゃない! 文句があるなら出て行け!」

 感情をむき出しにしておおかみは、くまを怒鳴りつけました。びっくりしてくまはあわてて店をでていきました。

 それからおおかみはレストランをたたみ、森の奥深くへ移りすむことにしたのでした。そこでレストランを開けば、自分の料理が好きなやつしかこの店にはこないだろうと思ったのでした。

 しかし、たいていの動物はこんな森の奥まで来るのは大変です。誰も来るはずがありません。

 新しい土地でおおかみレストランを開き始めて数日が経ちましたが、全くお客さんは来ません。次第におおかみは寂しくなってきました。

「お客さんが来ないことがこんなにつらいことだなんて……」

 おおかみはぽつぽつと大粒の涙を流し始めました。今までいろんな動物から恐れられ、避けられてきたおおかみからすれば、こんなことはよくあることだったはずです。

 おおかみは最初のお客さんが来た時のことを思い出しました。はらぺこねずみに「これは今まで食べたなかで一番おいしいかもしれない!」と言われた時は、生きた中で最もうれしいと思った時でした。この言葉のおかげで次もまたおいしい料理を作ろうというはげみになったのでした。

 ここでようやくおおかみは料理を食べてくれる動物たちの存在の大切さに気づきました。

 お客さんがおいしいと言ってくれるからこそ、それがはげみとなります。時にはお客さんから文句のようなことを言われることがあるかもしれません。けれども、そのことに対して素直に受け止めることが大切だと気付いたのでした。お客さんが自分の作ったものを食べて何か言ってもらえることにありがたみを感じるようになったのです。

 おおかみは元いた森へと戻ってきました。もちろん、レストランを開くためです。

「いらっしゃいませ。当店は塩ひかえめのスープもご用意しております。よろしければご注文下さい」

「じゃあそうだね。スープをもらおうか。もちろんうす味のやつをたのむよ。私は年寄りだからね」

「かしこまりました。すぐお持ちします」

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