羽虫

ひぐらしゆうき

-1-

 熱帯夜、私は冷房のないボロアパートの一室で眠れない時間を過ごしていた。仕事終わりで非常に疲れているというのに横になっても全く眠ることができない。窓を開け放っていても入り込んでくるのは生暖かい気持ちの悪い風であった。

 寝よう寝ようと体をくねらせていると、窓から侵入してきた羽虫がオレンジの常夜灯周囲を飛び回っていることに気が付いた。

 暑さをものともせず動き続ける羽虫はひたすらに光に向かって突撃している。いったい何がそこまで興味を誘っているのであろうか?虫けらのことなどわかりようがない。

 仰向けになり眺めていると羽虫は常夜灯を突如離れ、私の眼前にまで高度を落としこちらを観察するようにホバリングしている。あまりに近く、淡い光の中であっても黒く細長い胴体と不気味な複眼が見える。

 私は鬱陶しく感じ手で振り払った。しかし、羽虫は全く気にせずその場にとどまっていた。何度手を払おうと変わらず、腹が立った私は思い切り両手で挟んだ。潰れた羽虫を確認しようと手を広げて見たが、手の中に黒い物体は確認できなかった。手を顔の前からどけるとやはり羽虫は眼前に居る。

 いっそ殺虫剤を部屋中にまき散らしてやろうと考えたが、私は気持ちを落ち着かせて冷静になる。そうだ、目を閉じて寝てしまえば羽虫など気にする必要はない。

 私は目を閉じて横を向くと寝ることにだけ集中した。するとどうだろう。先ほどまで暑さで眠れなかったといううのに今はとても眠れそうだであった。

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