第12話 Biginning(12)

「え、泉川さん・・がですか?」



帰宅するとゆうこはひなたに白湯をのませているところだった。



「もー、ほんまに。 すんごい仕事するかと思えば。 アホか、こいつ!みたいなこと言うし。 ほんっまわからへん!」



志藤は疲れたようにテーブルに肘をついて思わずグチってしまった。




「泉川さんですか~~~、」



何だか含みを持ったように言う彼女に



「あいつと接点あるの?」



と聞いてみた。




「いえ。 たまに秘書課に用事があって来たりすることもありますし、もちろん知ってましたけど。 有名人ですから。」



「有名人?」



「ええ。 まあ・・目立つじゃないですか。 カッコイイし、明るい人だし。 秘書課の子もけっこう噂してましたから。」



白湯を飲ませてひなたを立て抱きにして背中をさすった。




「え? ゆうこもそんなん思ってた?」



少し焦った。



「あたしですか? 別に・・あたしは特にへーって感じで聞いてましたけど。 すんごくお坊ちゃんで遊び人な人なんだなあって。」



彼女が特に泉川には興味がなかったことを知り少しホッとした。



「そうですか。 志藤さんがそんなにリスペクトされてるとは知りませんでした、」



ゆうこはクスっと笑った。



「リスペクトって。 ほんま遊んでるだけでな、ロクな恋愛もせえへんで・・」



「ま、でも。 まだ本当に愛せる女性に巡り会えてないってことなんじゃないですか? 話を聞いてるとそんな感じです、」




彼女の言葉は



あまりにその通りだった。



「昔の自分を見ているようで、複雑・・とか?」



さらに痛い所をついてくる彼女に




「なっ・・! おれは! あんな単純でもアホでもない!」



思わずムキになってしまった。



ゆうこはニッコリ笑って



「でも。 素直な人じゃないですか。 きっといい仕事、してくれます。」



まだふにゃふにゃのひなたを志藤に手渡し、キッチンに立った。



生まれてもうすぐ2ヶ月になろうとしているひなたはたまに笑っているような顔をする時もあり



じーっとつぶらな瞳で見つめられると



「ほんま。 ヘンな男にひっかかったらアカンで。 ひなた、」



自分のことを棚にあげて、思わずそう言ってしまう。



すると少しだけひなたが笑った気がした。




とにかくもう



自分の子供がこんなにかわいいなんて想像もできなかった。



ひなたを見たみんながパパにそっくり、だなんて言ってくれて。



今までまったく感じたことのない『父性』が湧き出てきて。



「ひなた~~、ほんっま・・ひなたはカワイイなァ・・」



思わず抱きしめてしまった。



洗い物をしながらそんな光景を見てゆうこはまた笑ってしまった。



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