アットホームな職場です ~カメレオンに狙われた新人~

ゴオルド

第1話 アットホームな職場に転職しました

無駄に転職回数の多い私が、とある会社に入ったときの話です。


その会社は、いわゆるアットホームを売りにしている会社でした。

アットホーム。この危険度がおわかりいただけるだろうか……。わかる人は転職経験が多めですね、私と握手!


アットホームってのは、私に言わせれば感情を職場に持ち込む会社のことです。社員たちは家族みたいに笑ったり泣いたり怒ったりする関係性を職場に展開しております。そうやって出来上がった人間関係に後から入っていくのですから、転職組は相当なアウェーです。


先住者にとっては居心地が良く、新入りにとっては地獄、それがアットホーム!

その上、アットホームな会社には思わぬ危険人物がいたりもするのです。常識では考えられないような人が。







私が入ったアットホームな会社の社長は、60代の男性で、見た目はさわやかなスポーツマンという感じでした。


入社して間もない頃、社長はほぼ毎日、

「ゴオルドさん、分らないことがあったら何でも聞いてね!」と声をかけてくださいました。

「うちはどういうわけか入社してもすぐ辞めてく人ばかりでね。ゴオルドさんには長く勤めてほしいって思ってるんですよ」

すぐ辞めていく人ばかり……嫌な予感。人がすぐ辞めるのって大抵は職場に問題があるからですもんね。私、またおかしな会社に入っちゃったかな?


せっかく採用した私に辞めてほしくない社長は何かと気を遣ってくださいまして、事あるごとに私を褒めてくださいました。そりゃもう私が居心地が悪いぐらいに。パソコンでWordを起動しただけで褒められるぐらいでした。正直やめてほしい。そういう褒められ方をされていたら、私はいつまでたってもアウェーのままです。会社に馴染めません。困ったなあと思っていたら……。


「社長、彼女ばかり褒めるのは何でですか」

と社長に苦情を言った女性が。

彼女は50代の女性で、言いたいことをズバズバ言う方でした。私はこの方に「ボス」とあだ名をつけ、ひそかに恐れていました。


社長は「いや、だってさあ……」などともにょもにょつぶやくだけで、はっきり言い返したりはしません。社長よりボスのほうが強いのです。社長が何か言っても、ボスが文句を言ったら社長は小声になる、そういう会社でした。お局様なんて可愛いもんじゃなくて、ボスっていう言葉がぴったりの迫力のある女性でした。



「社長はその人ばっかり贔屓していておかしいですよね」

ボスは私のことは名前では呼びません。新入りの私をまだ「家族」とは認めていないからです。怖い!


「冴木さんが入社したときは、社長は冴木さんをチヤホヤしてなかったのに」

そう言われて、話に巻き込まれた冴木さんという女性、彼女は私と同い年くらいに見えました。30代前半ってところでしょうか。彼女も中途採用で、このアットホームな職場に7年前に加わった人でした。一流大学を卒業しているのに偉ぶったところのない、いつもニコニコ笑顔で控え目な優しい女性です。


冴木さんは突然話に巻き込まれて、困ったように笑っただけで何も言いませんでした。そりゃそうですよね、こんなこと言われても困りますよね!


「私の手芸サークルでもね、新しく入ってきた人を先生がチヤホヤするの。でもそんなの最初だけなのよね」

唐突にようわからん話で会話に乱入してきた藤宮さん、50代の女性は、私に向かっておっとりと微笑みかけてきます。えっと、どういう……? これはフォローされたのか、それとも嫌味を言われたのでしょうか。

ボスは藤宮さんに毒気を抜かれたようで、顔から気迫のようなものが消え、黙り込みました。


それで話は終わったようで、社長も冴木さんも自分のパソコンに戻り、私も自分用に用意されたパソコンに向き合いました。



チヤホヤされるのも最初だけ、か。



なんかようわからんけども、この居心地の悪さも最初のうちだけ、そう思って頑張ってみるしかないな! と思いました。生活あるし、お金は稼がないといけないしね。





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