宝箱のパスワード

キョウ・ダケヤ

Natural monument【12月16日】

『…そうだ、取ってこい…よし!ここに持ってきて…』

『…まて!だめだ!まだ…くっそぉ…』

『…うわぁぁ…こんなのもう、立ち上がれる訳…』

 

 指揮官であるガダール・カーナルは、部下達が崩れ落ちる様を見ていることしか出来なかった。

 ヤマネコ部隊と恐れられ、数多の戦争を勝ち抜いてきた精鋭達が、一人、また一人と胸を撃ち抜かれていくのである。誰がこんな未来を予想しただろうか。

 

「誰だよ!こんな小さな島国、2日で落ちるって言ったやつ!クッソ!……それで、次は俺の番ってことか」

 

 叫び、そして吐き捨てるように言うガダールに呼応するように、獣は姿を表した。

 伝聞の通り、闇夜を思わせる漆黒の瞳。緋赤と称される美しい肢体。

 破壊と再生を司る神シヴァの名を冠し、我が祖国の英雄をも籠絡してしまう、正に古狼。


 眼前に現れたそれは、鋭い口調で『王である。王である』と、はっきりと立場を伝えながら近づいて来る。


 逃げなければならないはずなのに!

 私が敗れることは、この戦争に敗れることと同義なのに!


 そう思っているはずなのに。身体は忠誠を誓うかのように片膝をついていた。


「王」


 獣が嘲笑う。


「…こんなもん、勝てる訳ねぇわな」


 獣がガダールに覆い被さると、あとはその荒々しい息遣いだけが、部屋に響き渡っていた。



 ――こうして血で血を洗うイヌネコ戦争は、誰も知らないうちに回避された。たった1匹の《SHIBA》によって。


 国の英雄として保護された彼は、多くの子孫を残した。そしてまた、多くの信者も。

 だがいずれまた、イヌネコ戦争は起きる。必ず。その時まで《SHIBA》は眠る。

 舌を出しながら、眠っているのだろう。

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