伝説と秘密が多い1日 前





 薄暗く鬱屈した林を進んだ先にある、荒廃した建屋の中で、光の灯らない濁った瞳がユラリと浮かんでいる。



「なぁおい悪かったって!別にアンタの邪魔しようなんてこれっぽっちも思ってない!アンタの縄張りだって知らなかっただけなんだ、見逃してくれよ!」



 それに必死の形相で言葉を並べるのは、深い紫をした鬼を彷彿とさせる装いの少女。彼女は所謂“魔女”と呼ばれる存在である。彼女の傍らには、ついさっきまで同じ“魔女”であり友人だったモノが転がっていた。



「アンタも同じ“魔女”だろ!?だったら仲間同士仲良くしようぜ。いったん落ち着――ッ、え?」



 何が起きたのか理解も出来ず、その場に崩れ落ちた。乾いた破裂音の後、“魔女”は魔女だったモノへ変わり果てた。


 ボロ屋の隙間から射し込む光が、橙と灰色のメイドを照らしている。【あの魔女】の1人、ハックルベリーである。用が済んだらしく1人出ていくと、振り返って発砲する。

 青白い炎が建屋を包み込み、静かに燃えている。普通の火炎ではない様だ。音もなく、熱も感じないが間違いなく建物を焼き払っている。やがて炎が消える頃には、少し焦げた基礎だけが残っていた。

 ハックルベリーはぼんやりと空を見上げると、1発上空へ撃ち、腕を下ろしたまま固まっていた。


 しばらく茫然と立ち尽くしていた。気付けば周囲を霧雨で覆われている。肌や衣類の表面が少し湿り気を帯び始めた時、背後から声をかけられる。



「うわぁ…ひっどい顔してんね、おつかれ」



 反射的に銃を構えるが、声の主を見てすぐに下ろした。黄色い雨合羽に、体格と不釣り合いな大きな赤色の長靴、3体のてるてる坊主を浮かべた彼女は【霧雨の魔女】と呼ばれている。彼女は変身中、霧雨が強制的に展開されてしまう。地味に鬱陶しいが、もう慣れっ子である。


 ハックルベリーは動かない。

 振り返り、無言で見つめ続けている。



「その目やめて、マジてやめて。…ほぉ~ら帰ってきてぇ~、キミは何時ものチャランポランだよ~」



 ハックルベリーの目から逃れるように、後ろから話し掛ける。だって怖いんだもの、絶対に見られているのに何を見ているのか分からない虚ろな目が怖い。

 そんな気持ちを察したのか、ハックルベリーが落ち着いた声音で返事をする。



「やあテルテル、久しぶりだね。あとお疲れさん」


「久しぶりだね、ベリー」



 互いに軽く拳を合わせて挨拶し、焦げた建物の跡地に視線を移す。



「これはベリーが?何人?」


「2人。そっちは?」


「[魔法省]に捨てて来たよ。片方には逃げられちゃったけど」



 長い溜め息を揃って吐いて、

 


「そう…協力ありがと、あとはやっておくよ」



 絞り出した細い声音で礼を言う。

 そしてハックルベリーは、1人でこの場を後にしようとする。



「あのさぁ、そんな状態のアンタを放っておけると思ってんの?このあたしが」


「元々巻き込むつもりは無かった」



 無理矢理持ち上げた元気も何処へやら。小さく平坦な声音に戻ったハックルベリーの肩を掴み止め、くるりと向きを変えて目を合わせる。

 

 

「うっさい!一枚噛ませな。あたしが動ける範囲で良い、そのための[魔女会]なんだろ?」


「はぁ…そのとおりさ。そのための[魔女会]だけどね、君の目的には沿わないだろう?」



 肯定を押し切られたハックルベリーは、まだ不満そうだ。手が増える事のはありがたい。それが何時もと同じ様な内容であれば是非もない。ただ、今回は状況が違った。

 “魔女”を捕まえる事はしない。再起不能でもなく、殺害が目的である。


 更生の余地なしと判断され、その活動が過激な“魔女”は処分するしかない。


 このような殺害任務は全て、ハックルベリーが担っており、補助に付けられる者も彼女の指名だ。【あの魔女】の2人も[魔女会]の殆どのメンバーも、ハックルベリーの活動に参加させてもらえていない。特に身近な2人は、これを知っているし参加希望もしているが、ハックルベリーは断り続けている。

 その中で、ハックルベリーが参加要請を出すのは現在3人。【あの魔女】に続いて名前の上がる【泡沫の魔女】。“魔女”最強の一角【鉄腕の魔女】。まだ[魔法省]に捕捉されていない隠れた“魔女”。


 これら計4人で、日本各地のどうしようもない“魔女”の処分を行っている。

 彼女達の“魔女”として活動する目的が、“魔法少女”を守るための汚れ役であるからだ。


 今隣にいる【霧雨の魔女】は、活動指針が少し違う。この“魔女”は、ただ1人の為だけに戦って、負けた。曰く、死に損ないの敗走者だという。そんな彼女の背中に張り付いている、呪いの様な最後の約束が“魔女”テルテルを形作っている。

 

 ハックルベリーの目に写る彼女は、自分を殺し、理想の虚像を動かす生き人形だ。その有様は、ありえたかも知れない自分の姿と重なって見える。だからこそ、今まで要請を出さなかったし、だからこそ、今回の参加を許している。



「で、テルテル。君は何がしたいのかな?」


「なにもしないよ。あたしはずっと、これからもずっとね。それがあたしの約束だもの」


「ならいいさ」



 一時ひとときの休みを過ぎた後、揃って歩き出す2人の“魔女”。ハックルベリーの持つ『処分者リスト』を上から眺めるテルテルを連れて向かうのは次の目的地。

 楽しくもない仕事を眼前に引っ提げられてたところで、やる気など湧くはずもない。気合いは入れても態度には出さない2人は、気怠げに姿を消した。


 

 



 鬱陶しくも纏わり付く水煙の中で、白く陰る“魔女”が2人。

 赤い水溜りを踏み付けて、つまらない話を溢す。



「ベリーってさ、何時もこんなことやってんの?」


「たまにさ。汚れが広がらない程度にゴミが溜まったら、それを片付けてるだけだよ」


「それもそうか。そんな頻繁にやってたら日本中、死体だらけだもんね」



 自分達で作った死体には目もくれず、無言で焼き払う。今更、この程度で感傷に浸るほど、この“魔女”達の心は柔くない。

 “魔法少女”を守りたい“魔女”にとって、処分対象者は守るべき存在ではない。むしろ危険を運ぶ害悪。今更な弁明も謝罪も抵抗も一切通用しない、塵は塵へ。下される罪状は唯一つ、存在を還すのみだ。


 

「テルテル、そろそろ帰んな。次は遠いよ」


「あと4人でしょ?全部付き合うよ。どうせ暇だし」


「暇つぶしでやる内容じゃないと思うけどねぇ…んじゃ、あと一踏ん張りしようか」


「福岡に2人、茨城、宮城…どの順番で行く?」


「福岡」



 燃えていた残骸が尽きて火が消えるのをチラリと見ると、またすぐに姿を眩ませた。


 



 



 さて、四国及び中国地方での処分を終えた2人は、“魔法少女”特有の高速移動。ただし個人差はある。特別ハイスペックなハックルベリーが、テルテルを荷物の様に抱えて空を翔けての移動だ。


 広島から福岡へ、凡そ1時間弱の空中散歩。直線距離とはいえ、その速度はかなりのものである。


 

「うげっ!」


「気ぃ引き締めなよ~、ボスラッシュだ」



 見据えるのは廃工場。数ヶ月前に“怪物”に襲われ、その後“魔女”に占領されたのだ。明確に所在が知られており、それでいて捕縛も無力化も出来ていない珍しい場所だ。

 総力戦であれば“魔法少女”は数と支援の差で押し来ることが出来るだろう。しかし“魔法少女”の敵はそれだけではない。ここだけに戦力を集中させることが出来ないのである。


 まあつまりは、現状対応することが出来ない程厄介な“魔女”の根城な訳だ。どこかにいる【あの伝説の魔女】と似ている。ただし[魔法省]が定める危険度合いが全く違う。刺激しなければ特に何もしてこない“魔女”と、毎日の様に問題を起こす“魔女”。当然の判断だ。



「そいやベリー。最近サトミが忙しそうなんだけど、なんか知ってる?」


「子犬拾ったらしいよ、写真見るかい?」


「見る!」


「ほれ」



 気楽な話をしながら歩く。途中、何度も写真を見るために立ち止まりながら。工場魔女の城が近くなるにつれ、2人の緊張感は増していく。なんてことは無く、他愛のない話を続けている。

 変に意気込むと碌なことにならないものだ、ましてや日常とはかけ離れた事を行っている。せめて今の仕事中くらいは平常心を保ちたい。“魔女”や“魔法少女”の多くが修得しているメンタル保護スキルである。


 工場に忍び込んで、コツコツと足音を響かせて“魔女”を探す“魔女”。



「そんじゃ手筈通りに。ベリー任せた。[雨天譲渡=煙雨]」


「さっすが支援系、10分で戻る」



 建屋内を埋め尽くす真っ白な水蒸気を作り出し、更に自身の武装の1つである逆さまのてるてる坊主をハックルベリーに取り憑ける。

 紐もチェーンも何も無いが、ハックルベリーの腰辺りにくっついたてるてる坊主は目を開く。黒一色の目玉と、裂けた真っ赤な口が猟奇的である。

 その口から吐き出されるのは、周囲に展開されている水蒸気と同じものだ。


 たちまちハックルベリーの姿は白く霞み、残る足音だけが、そこに居たことを知らせている。



「クソが!何も見えねぇぞ。シカ!そっちはどうなってる」


「おんなじ。新手の“魔法少女”か!」


「残念、“魔女”なんだよねぇ」


「そこか!」


「ほい外れ」



 折角の不意打ちチャンスを棒に振り、姿は隠すがわざわざ声をかけるハックルベリー。間違いなく相手は処分対象者ではあるが、僅かな期待を込めて多少の会話は行っているのだ。そこで何か琴線に触れれば、相手を生かして置くことも許可されているからだ。


 何時もの様に、二三言交わして様子を伺う。互いを庇う様な素振りに、慣れた位置取りから感じるのは信頼だ。それはとても貴いものだが、もう少し視野を広げて欲しかった。



「…惜しいな……」



 知らずに漏れ出したハックルベリーの本音。それはそれとして、仕事に私情を挟みはしない。何もメリットが無いばかりか、同情しようものなら守るべき“魔法少女”へさらなる被害が及んでしまうだろう。

 だから、ハックルベリーの動きは鈍らない。表面上では何も変わらず戯言を垂れ流しているが、処分は決定した。


 真っ白な煙雨が室内で広がっている。ハックルベリーがそこに居る事を示す足音と話し声、ただし姿だけが見当たらない。



「…えっ…?」



 忙しなく、何も見えない辺りを警戒する“魔女”達。その片割れが発した、気の抜けた声がやけに大きく耳に届いた。

 


「さようなら。来世があるのなら、次はもっと上手く生きておくれ」


「っ!あんたは――…」



 慌てて振り向く“魔女”の目の前に、銃口を突き付けたハックルベリーが現れる。彼女の寂しそうな、悲しそうな表情に気が付く前に、もう1人の“魔女”も世界を失った。



「…終わりか。お前さんもお疲れだね、戻って休んな」



 腰にぶら下がるてるてる坊主を撫でると、それはスゥーと静かに消えた。同時に、周囲を取り巻いていた煙雨も消えていく。


 後に残るのは、急所を撃ち抜かれて崩れ落ちた魔女だった物が2つ。そこ以外に傷はなく、きっと痛みを感じる前に生涯を閉じたのだろうと見て取れる。

 まだ暖かさを残す赤色の染み諸共、熱の無い炎が2つを焼いている。



「ベリー、ちょっとマズいかも」



 建屋の外を警戒していたテルテルが、少し困った様子でやってきた。戻る時間までは余裕があるし、その声音から何か小さなトラブルが起こった事を知る。

 どうにか出来る範囲内なのだろう。困ってはいるが落ち着いてハックルベリーに相談する。



「どしたん?」


「“魔法少女”が来てる」


「すぐ逃げよう。着地した場所で合流ね」



 方針が決まれば行動は早い。長く“魔女”をやってるだけあり、逃亡の術は身に付いている。始めから痕跡を残さない様に振る舞っている2人は、“魔法少女”が来ているらしい方角とは別へ、それぞれ分かれて逃げ出した。


 今回は“魔法少女”をからかいに来た訳ではない。むしろ見つかってはいけないのだ。誰が好き好んで殺戮現場を見せねばならんのだ。最終的に“魔女”消失、原因不明。になっていなければいけない。

 原因を調査して、もしかして“魔女”?と粛清をイメージさせるくらいが丁度いい。


 何故なら[魔女会]は正義の味方ではないからだ。悪が寄せ集まって統率が取れているだけなのだから。

 お悩み解決のヒーローには、なってはいけない。



「おーおー古参が出張るねぇ」



 危険を承知で“魔法少女”の姿を見に行くハックルベリー。かく言う彼女も出歯亀だ。だって気になったんだもの、誰が来ているのか見てみたかった。

 ふわりと揺れるフリルのドレス。爽やかな幼さと同時に、狡猾な老練さをも感じさせる妖しい少女。全国でも上位に入る実力者である。西日本をどこで区切るかによるが、少なくとも5指には入っているであろうトップランカーである。

 因みに、『最強』のブートキャンプには参加していない。希望は出していたらしいが、彼女が抜けた場合の穴を塞げる人材が居なかった様だ。それだけ、能力の高い“魔法少女”である。



「うおっと!…退散退散」



 視線の先の“魔法少女”が、ハックルベリーの隠れる物陰に振り返ると同時に攻撃を仕掛けてきた。威力的に威嚇射撃だろう。ただ、不穏な気配を感じただけ、ただ本能の示すままにそこへ攻撃しただけ。何かがそこに居ると確信を持っている訳ではない。

 その“魔法少女”が確認に来る僅かな時間だけで、ハックルベリーは痕跡を消し去りその場を去っていた。


 

「おまたせ、待った?」


「んぅん、今来たところ」



 しょうもないやり取りが出来る位に余裕のある“魔女”2人は、キチンと落ち合う事が出来たみたいだ。

 変身中、どうしても霧雨が発生して目立ってしまうテルテルは変身を解いている。直前に変身し、すぐに解除するのが彼女のスタイルだ。おかげで、生身での運動能力も上がったらしい。そりゃ軽業師の如く街中をパルクールして逃げていれば、嫌でも身体の使い方が上手くなる。

 


「んでベリー、どうやって行くの?車で15時間、電車で8時間、歩きで10日だって」



 地図アプリでおおよその目安距離と時間を調べたテルテルが、これは泊まりかと荷物の中身を思い出している。

 その隣で、蛍光色が混ざった弾丸を生成したハックルベリーはそれをシリンダーに挿入している。



「すぐに向かうさ、今日中にキリをつけたいからね。テルテルには特別に、ハックルベリー式108つの切札の1つ。転移門を見せてあげよう」



 準備の整ったハックルベリーは、まあまあ上機嫌に言い放つ。そしてそれに続けてるのは口止めだ、切札は隠しているから意味がある。



「この事は、他の人には内緒にしておいておくれよ?」


「わかった」



 悲しくなる程反応が薄い。やるなら早くしろよ、とでも言いたげな視線がハックルベリーを射抜いている。[魔女会]に所属して、ハックルベリーとそれなりの関わりのある“魔女”であれば、大抵同じリアクションになるだろう。

 それは単に、コイツなら出来ても不思議じゃないからである。普段の言動もそうだが、ハックルベリーは自身のハイスペックさをひけらかしはしないが別に隠しもしていない。

 戦闘スタイルの変更という、現状ハックルベリーが持つ唯一無二の特徴を知っていれば、その性格的にも何か隠していて当然だと思われている。

 

 それにだ、ハックルベリーがその魔法が使える事は確かに凄いが、転移転送系の魔法が使える“魔法少女”もそれなりに居る。勿論数は少なく、全体で見れば珍しい部類にはなるだろう。それでも、驚くほどの事ではない。

 驚く様な事であれば、クライペイントの作る黄色の円をした門は驚くに値する。転移転送系の魔法を使える“魔法少女”でも、多数を同時に移動させるのは難しく、転移門であれば開け続けるのは至難の業。特に苦もなく門を開け続け、何人でも何度でも往復可能な彼女の魔法は特別なのだ。


 

「すぐに閉じちゃうから、急いで飛び込んでね」



 それだけ言って、無造作に撃つハックルベリー。すぐ側にある壁に着弾すると、半径1m程度で波紋が広がり、水面の様に揺れる不思議さをもつ。元の壁が波打っている様にしか見えないが、そこに向かってハックルベリーが飛び込んだ。それを見たテルテルも、遅れまいと続いて飛び込む。

 それはまるで、9と3/4番線に入る姿を思わせる。

 


「ほい到着ぅ〜」


「ここは?」


「竜神大吊橋…の下、バンジーとか出来るらしいね」



 辺りを見回せば囲むのは木と木と木、見上げれば大きな橋が太陽を隠していた。

 テルテルは地図アプリを開きGPSで現在地を確認し、ハックルベリーの魔法が本物だったと感心している。


 何故ここに出たのかというと、自由に行き先を決定出来るクライペイントの魔法とは違い、ハックルベリーの魔法には条件が課せられている。


 1つ、壁や屋根で囲まれていない事。

 1つ、過去に訪れている事。

 1つ、6時間以内にマーカーを設置している事。

 

 簡単な縛りに見えて実行は難しい。中々簡単に行けないから転移したいのに、マーカーの時間制限が面倒をかけている。


 ただし、そこは流石のハックルベリー。特定の位置であれば、マーカーを超長距離から射出して設置する方法を編み出している。

 今日、テルテルと出会う直前に空に向けて撃った弾丸が、そのマーカーである。



「ん?ベリー、でもここから“魔女”の所までもまだ距離あるけど、何でここな訳?」


「便利な魔法じゃあないからね、印象深い場所にしかいけないのさ。ちなみに、ここでの思い出は紐なしバンジーをしてマジで死ぬかと思った事だねぇ。いや〜あれは焦った、今でもトラウマだよ」


「良く生きてるよ…」


「幸運も悪運も引っくるめて、運が良いのさ」



 橋の上ではなく下、注目して見る人も居いない。2人は人知れずに現れ、そしてすぐにこの場から居なくなっていた。


 2人が向かったのは大子町、目的地はここから少し進んで栃木県との県境周辺らしい。

 変身を解いて町に紛れ込むと、適当に休める場所を探す。なんだかんだで早朝から動きっぱなしだ、少し休んでも文句は出ないだろう。それに、転移や転送系の魔法は総じて消耗が激しいものだ。クライペイントが気軽に使うのは、彼女の回復速度が異常なだけである。普通は休んで当然だ。ハックルベリーも例外ではない。


 目に入った喫茶店で軽い小腹を満たし、残りの予定について話し合う。特に帰り、テルテルのホームは四国地方だ。どっかしら観光しながら帰る気でいる。


 テルテルはあまり縄張りを離れない。というか、現代社会では殆ど旅行に行く事か少なくなっている。旅行先であればそれなりの保護はされてだろうが、移動中に“怪物”と遭遇する不安が楽しみを上回る。“魔法少女”の数と質が高まってきたとはいえ、都心部等の人口密集地以外ではまだまだ心許ない。

 表立って口にはしないが“怪物”への恐怖や不安は根深いのである。新幹線や飛行機の一部は“魔法少女”の護衛を付けているため、そのような護送でなければ長距離移動が文字通りの命懸けになってしまうのだ。



「ベリー、そろそろ行く?」


「そーねー」



 軽食を食べ終えたハックルベリーとテルテルは、日常の続きを始めるノリで魔女退治に戻る。どこから誰が見ても、女の子が2人で談笑しながら歩いている様にしか見えない。実際その通りではある。2人の目的が物騒だとは思わないだろう。


 再びハックルベリーに抱えられ、県境付近までやって来た。今日は全国をお日様が照らしている。霧雨だとしても、違和感に気付く人は気付いてしまう。目立つ真似は避けたい。


 国道416号線から南へズレた場所に、目的の“魔女”の拠点があると予想している。確信に近いが、最悪今回は捜索だけで終わってしまう可能性もある。これはテルテルに通告済みだ、その上で一緒に来ている。



「なんたってこんな場所を拠点にするんだろう…何するにも遠くない?」


「そりゃぁ“魔女”だから、だろうよ。そもそも、まともに助けてくれる人が居るのなら、誰も“魔女”になんてならないからねぇ…君だって、誰も助けないから“魔女”なったんだろう?」


「嫌味な言い方するね」


「“魔女”は勿論、“魔法少女”にだって居てほしくないからさぁ。子供は楽しく能天気に、笑っているのが1番だからね〜」

  

「同意はするけど、ベリーも歳は同じぐらいでしょ?」



 変わらず荷物の様に抱えられたままのテルテルは、暇潰しにハックルベリーと会話する。ただでさえ“魔女”になるような子は友達が少ないのだ、“魔女”になって“魔法少女”から追われているのなら尚更だ。ソロ活動の“魔女”であるテルテルは、なんでもない会話が楽しくて仕方がない。


「また外れか〜」


「候補は?」


「まだある。結構残ってる」



 “魔女”が居そうな場所は、事前に調べてある。とはいえ、実際に現場調査をしたわけではなく衛星写真でそれっぽい場所を探しただけである。近くに白饅頭の分体が居れば探しやすいのだが、この辺には居ないみたいだ。




 





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る