第72話 報告
「というわけで、かなり焦りましたけど無事に召喚免許試験に合格できました!」
試験の翌日、俺は八乙女ダンジョンを訪れていた。
「へー、わざわざ女の子を助けたんだ」
八乙女さんの声が低い! 一体何事だ!
「えっ、いや、成り行きで」
「成り行き、ねぇ」
ふーっと息を長く吐いている。
「あっ、そうだ! その女の子がなんと、SMCオーナーの段田さんの娘さんだったんですよ!」
キッと目つきが鋭くなり、なにやら剣呑だ。
「……随分と運命的ね」
「そ、そんなこともないでつ」
いかんいかん! 話題を変えなければ!
「これ、見てください! ゴ治郎のモンスターカードです!」
俺は焦りながら財布の中からカードを取り出し、テーブルの上に置いた。モンスター検査の後に発行されたそれにはゴ治郎の顔写真が載っている。ゴ治郎がお国に認められた証だ。
「ふふふ。ゴ治郎、緊張して顔が変になってる」
「写真撮影のとき、帽子を脱いで下さいって言われて一悶着あったんですよねー」
「あはは! でも、それは仕方ないかも」
まぁ、係の人に悪気がなかったのは分かっている。まさかゴ治郎の赤帽子が身体の一部だとは思わないだろう。俺だって初めはそうだった。
「これで間違いなく、水野君とゴ治郎はお国にマークされたわよ」
「大袈裟ですねー。ちょっと変わったゴブリンぐらいの認識でしょ」
「水野君、意識しちゃいそうだから言わなかったことがあるんだけど……」
八乙女は急に顔を引き締めて言った。
「なんですか?」
「召喚免許制度には2つの目的があるのよ。1つは召喚モンスターを使った犯罪の抑止のため」
「はい」
「もう1つは優秀な召喚者や強力なモンスターを国が把握する為よ。合格、不合格とは別に召喚者やモンスターの格付けも行われているの。勿論、極秘でね」
「えっ、何のためにですか?」
「ここからは想像になるんだけど──」
そういって八乙女さんはティーカップの紅茶をすする。
「国はそろそろ本気でダンジョンをクリアするつもりなんじゃないかな? その為にもリソースの確保が急務」
「ダンジョンのクリア……。リソースの確保……」
日本はおろか世界でも、ダンジョンの最下層に到達したという話はない。いや、そもそもどこが最下層なのかが分かっていないのだ。下の階層にいく転移石が見つかっていないのか、それともそこが既に最下層なのか、判断する術がない。
「最近入った情報なんだけど、あるパブリックダンジョンに民間人が集められてダンジョンアタックが繰り返されているらしいの」
「そんな情報のリークもあるんですね」
「ええ。リアルダンジョンwikiは信用されてるから」
「で、そのパブリックダンジョンは何か特別なんですか?」
「そのダンジョンね、転移石のある部屋の壁に数字が書いてあるんだって。1/10とかって感じで」
それはつまり──。
「第10階層がそのダンジョンの最下層ってことですか?」
「そうでしょうね。わざわざ人間にわかるように表記されている。ダンジョンを造ったものからの明確なメッセージ。最下層には何があるのか? そこにダンジョンが出来た理由があるのでは?」
八乙女さんは目をキラキラさせながら話す。ダンジョンが出来た理由かぁ。
「とにかく、水野君がゴ治郎の召喚者ってことは正式に国にバレたわけだから、気をつけてね」
大学最後の1年、面倒なことにならなければいいが……。
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