第47話 ある観察者の視点
目的のレッドキャップはやたらと首を振り、警戒しながら進んでいる。まるで何かを探しているみたい。こちらの姿は見えていない筈だけど、あまり油断しない方がよさそう。
このランダムダンジョンの第1階層はただの通路に過ぎない、というのは広く知られている話。それなのにこの慎重な歩みはあの召喚者、水野晴臣の指示なのかしら? 随分と用心深い男ね。
この時点で私の中の評価は一段階上がっていた。ただレアな進化アイテムを取得して調子にのっているだけの学生ではない。幸運を味方につけた上で研鑽も怠らない。あのレッドキャップの後ろ姿にはそれだけの積み重ねを感じる。
せっかちなオークが転移した後、レッドキャップも第2階層へと消えた。さて、どんな闘いを見せてくれるのかしら。SMCで配信されたエキシビションマッチからそれほど時間が経ったわけではないけれど、あの時よりも一回りも二回りも大きく感じる何かがある。
「第2階層へ」
「……」
無言の頷きの後、視界が暗転した。
#
妖しく光る魔法陣が地面に現れ、空気を裂くいかずちの音と共にモンスターが現れた。
ハイオーク。
1番目のモンスターからなかなかの強敵ね。戦斧をゆっくりと構え、大した威圧感。
そして対峙するのはレッドキャップではなく、あの偉そうな男の偉そうなオーク。パッと見からして体格に差がある。それはそう。モンスターの格が一つ違う。オークは星3、ハイオークは星4。勝敗は明らか。なのに、オークは随分と余裕がある。何故かしら?
「ブイィィ!!」
長剣を持ったオークが一気に踏み込み、大上段からの振り下ろし。ハイオークは戦斧で受けようと──。
「!!!!」
青白く発光した剣身がスッと線を描き、そのままあっさりと戦斧は2つに分かれた。分かれてしまった。あの剣は何? それともあのオークがなにか特殊能力を身に付けた?
呆気に取られたハイオークは下から跳ね上げられた長剣を躱すことが出来ず、脇腹で受けた。これは決まり。そのまま胴に侵入した刃は止まることなく中空に抜ける。
長剣をしならせてハイオークの体液を落とし、オークはドロップアイテムを待つ。これは、出るわね。進化アイテムが。
これまでの経験上、進化アイテムのドロップ率はシチュエーションによってかなり変動する。先ず、召喚モンスターが成長限界に達していること。そして、進化ルート上の上位のモンスターを倒すこと。この2つが揃うと進化アイテムのドロップ率は跳ね上がる。
このオーク、憎たらしい顔をしているけれど、かなり鍛えられているのは間違いない。きっと成長限界に達している。そして進化ルート上の上位モンスターであるハイオークをあっさりと倒してしまった。条件は揃っている。
ボンッ! と煙が巻き上がった後、そこに残ったのはハイオークの牙。やはりドロップしたわね。進化アイテム。
雄叫びを上げながら踊るオークと、それを冷ややかな目で見つめるレッドキャップ。この2体、どこまで行くのかしら?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます