第46話 ランダムダンジョン
台東区の大きな霊園の近く。都内で最も入ダン料の高いプライベートダンジョンとして知られている、八乙女ダンジョン──通称ランダムダンジョン──があった。造りは古いが庭木がきちんと整えられた一軒家で、家主の几帳面さが外観に出ていた。
「晴臣、楽しみだな! 全然眠れなかったぞ!」
以前も同じようなことを言っていたな。初めてのダンジョンに行く前の晩、鮒田は眠れないらしい。
「つい最近、サイクロプスが出たらしいぞ。ランダムダンジョンで」
「らしいな! 俺も掲示板で見たぞ! しかし、あの剣があれば勝負になる筈だ!」
お互いの情報交換はほどほどに、鮒田が八乙女と書かれた表札下のインターホンを押した。
"はい"
「予約の鮒田だ!」
"少々お待ちください"
落ち着いた声が返ってきた。ランダムダンジョンのオーナーは女性らしい。
少しあって玄関から出てきたのは全身黒で前髪ぱっつんボブのお姉さんだった。20代後半だろうか?
「八乙女です。本日はご予約ありがとうございます」
「う、うむ」
丁寧な挨拶に機先を制された鮒田はいつもの不遜な態度がなりを潜めている。その様子が少しおかしくてにやけていると、チラリと八乙女さんに見られた。少しだけ目を見開いた気がする。
「では、こちらへ」
庭木の間を抜けるとこじんまりとした庭におしゃれなワンポールテントが張られていた。
「トイレはあちらです」
多分改築したのだろう。そこだけ新しい扉が庭に面して取り付けられている。流石、都内で1番、入ダン料の高いプライベートダンジョンだ。
「ごゆっくりどうぞ」
去り際、八乙女さんの顔に薄笑いが浮かんだように見えたのは気のせいだろうか。
#
「全くモンスターが出ないな!」
鮒田の発言は本当だ。ランダムダンジョンの第1階層を進んでいるが、全くモンスターには出会わない。実際に体験すると変な気分だが、これは事前に分かっていたことだ。
「ただ、真っ直ぐ進めばいいらしいな」
ランダムダンジョンの第1階層は第2階層へ行くためのただの通路だと言われている。脇道を無視してモンスターの出ない道をただ真っ直ぐ歩くと、10分ほどで転移石に辿り着く。その情報には偽りなく、ゴ治郎の視界には既に転移石が見える。
「第2階層に全てのリソースを注ぎ込んだダンジョン……」
考察好きの間では、ランダムダンジョンについてそんな風に言われているらしい。何かあるかもしれないと思い、ゴ治郎には注意深く進むように言っていたが、結局なにも──黄金色の瞳をもってしても──見つからなかった。
「おさらいだ。第2階層は部屋を繋げたような構造になっている。部屋に入ると1体、ランダムにモンスターが出現する」
「もう何度も聞いた! さっさと行くぞ!」
せっかちな召喚者に促されて武蔵が転移石に触り、それを追うようにゴ治郎も続いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます