第45話 切れ味
これは駄目だ。もう使えない。
綺麗に切れ目の入った湯呑みがその威力を物語る。短剣を振るったゴ治郎も驚いて声を無くし、その手にある短剣を不思議そうにみている。段田ダンジョンの隠し部屋で手に入れた短剣は、想像を遥かに超える代物だった。
ゴ治郎が力を込めて握るとその剣身が発光し、とんでもない切れ味を発揮する。こんなものをSMCで使ったら簡単に相手のモンスターを殺してしまうだろう。この短剣はダンジョン専用だな。
ちゃぶ台の前で腕組みして唸っていると、スマホが震えた。鮒田だ。
"晴臣、大変だ! 武蔵が剣聖になってしまった! 自分より大きな石を真っ二つだ!"
「それは武器が凄いだけだ」
"武蔵の奴、実は剣に関するスキルを有していたとは……"
「同じようなこと、ゴ治郎も出来たから。剣だよ、剣」
"名前が関係していたのかも知れないな! 名付けシステムだ!"
「うるせえ! 勝手にシステム作るな! まさか、この調子であの隠し通路のことベラベラと話してないだろうな?」
"ふはははっ! 俺がそんな愚かな訳ないだろ? あれは後々金になる情報だ! 全力で秘匿する"
ダンジョンの壁はすぐに修復される。俺と鮒田以外、あの隠し通路のことは知らない筈だ。あの部屋については分からないことだらけだが、今のところ誰かに相談するつもりはない。
"ところで晴臣よ! こんな強力な武器も手に入れたんだ。そろそろ挑戦してみないか?"
「挑戦ってまさか……」
"そう! ランダムダンジョンだ!"
ランダムダンジョン。
リアルダンジョンwikiで話題になっているプライベートダンジョンで、第2階層から現れるモンスターがランダムだという。星3以上のモンスターも当然出現する。レアな召喚石を求める者や育てた召喚モンスターの腕試しで人気のダンジョンだ。
「でも、あそこは入ダン料が馬鹿高いから……」
"ふはははっ! 金の心配ならいらん! 俺は仮想通貨でボロ儲けだからな"
くっ。こいつ、本当に金に対する嗅覚が鋭いな。一体どんだけ稼いでいるんだ。
"もし、召喚石や宝箱からレアアイテムが出た場合は俺が頂くが、入ダン料については全て出してやるぞ?"
「お願いします!」
情けないが、ここは甘えてしまおう。自腹だと生活出来なくなる。
"よし、予約取れたら連絡する! 心して待て!"
勢いよく通話は切られ、手持ち無沙汰だったゴ治郎と目が合う。
「ゴ治郎、新しいダンジョンに行けるぞ」
「ギギッギ!」
ゴ治郎は短剣をあげて喜ぶ。モンスターの性なのか。ゴ治郎も敵と戦うことが好きなのだ。
「次のダンジョンは毎回出現するモンスターが変わるらしい。ドラゴンが出たらどうする?」
「ギギッ!」
こうだ! とばかりにゴ治郎は短剣を振り下ろす。力が入ってしまったのか、剣身が青く輝く。
見えない敵に向かって短剣を振るう様子は随分と様になってきた。剣術の動画を見せた甲斐があったというものだ。
きっと、この剣の持ち主は見事な剣の腕前だったのだろう。あの部屋を見る限り、あそこで暮らしていたのはモンスターではない。きっと、人間かそれに近い存在だった筈だ。となると、ダンジョンとの関係は? 分からないことだらけだ。
考え事をしていた俺を、ゴ治郎が心配そうな顔で見ている。
「なんでもない。心配するな。考え事をしていただけだ」
「ギギッ!」
俺の余計な考えを追い払うように、ゴ治郎は再び剣を振るうのだった。
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