第30話 支配人は

「いらっしゃいませ」


階段を登った先で出迎えてくれたのは段田さんだった。入店前に鮒田を問い詰めて聞いていたので驚きはない。ダンジョンでのラフな格好とは打って変わり、スーツ姿で髪もピシッと決まっている。たぶん、こちらが本当の姿だ。


「オープン、おめでとうございます」


「ありがとうございます。おふたりのお陰です」


いえいえ、何もしてないです。と、言おうと思ったが鮒田が胸を張って威張り散らしている。たぶん鮒田は相当協力したのだろう。何も言わないでおく。


店内を見渡すと、何やら人垣が出来ている。歓声が上がっているから、もう召喚モンスター同士の闘いが始まっているのだろう。


「大盛況ですね」


「オープン記念、無料開放デーというのをダンジョン系のインフルエンサーにTwittorで呟いてもらったんです。通常は入場料1000円のところを今日は会員登録だけでご利用頂けます」


そう言ってタブレットを出してくる。


「住所のわかる身分証明書はございますか?」


「免許証で」


免許証をタブレットのカメラでスキャンすると会員登録は終了らしい。すぐに会員証となるカードを渡された。


「あちらのモニターで対戦の様子がご覧いただけます」


段田さんの視線の先にはモニターが2つ。どうやら人垣の中にはコロッセオを模した闘技場が2つあり、その様子をモニターでも観られるようだ。


一方ではゴブリンとコボルト。もう一方ではダンジョンウルフとスケルトンが戦っていた。鮒田とはよく模擬戦をやっているが、人の闘いを観るのは初めてだ。正直、燃えてくる。


「勝利条件は相手を戦闘不能にするか、召喚者が降参するかです。それぞれのテーブルには立会人が付いており、戦闘不能かどうかは立会人が判断します」


ふむ。あまり聞きたくないが、聞かないわけにはいかないことがある。


「もし、相手の召喚モンスターを殺してしまった場合は?」


「自分の召喚石をその償いとして差し出してもらいます。その旨が対戦前の誓約書に書かれています」


段田さんはピシリと答えた。まぁ、トラブルは発生するだろうが、誓約書がないよりはマシだろう。


「対戦に勝つと、相手から何か貰えるんですか?」


「いえいえ、そのようなことをするのはトラブルの元ですよ。当店は勝ち残り制になっているんです。3回勝ち残った方には提携先のプライベートダンジョンに90%オフで入れるクーポンと優先予約権を進呈します。今は段田ダンジョンだけですけどね」


ふむ。一見するとかなりお得に感じるが、3回勝ち残りというのがいやらしい。


鮒田と模擬戦をしていて分かったのだが、召喚モンスターをダンジョンの外で闘わせると、めちゃくちゃエネルギーを消費する。1戦目2戦目は大丈夫だが、3戦目にもなると召喚者のエネルギー不足でモンスターのパフォーマンスもかなり落ちる筈だ。


「SMCのオープンに先立って、段田ダンジョンの利用規約も変えました。召喚石を持たない人の利用はお断り。シャベルで掘り返して人間がモンスターを狩る事はNGです。そうすることによりダンジョンの復元時間を気にする必要も無いので、24時間フル稼働の3交代制が実現。もちろん、深夜はお安くなります」


まさにダンジョンフル活用というわけか。モンスターのリポップを無駄なく刈り取ることで、世の中に出回る召喚石の数も増えるだろう。そして召喚者の数も増える。SMC単体では当分赤字だろうが、色々な展開の仕方が考えられるな。


「ところで、対戦のインターバルで飲食してもいいんですか?」


「もちろん大丈夫です。ドリンクと高カロリーのプロテインバーを用意しています。観客用にアルコールの提供も近々開始する──」


俄に歓声が上がった。モニターを観るとスケルトンがダンジョンウルフに勝利したらしい。


「あのスケルトンは3回勝ち残りました。初のクーポン獲得者です」


「おい、晴臣! コロッセオが一つ空いたから、そろそろやるぞ! エキシビションマッチだ!」


鮒田が珍しく静かにモニターを観ていると思ったら、タイミングを計っていたようだ。


ちょうどいい。俺もウズウズしていたところだ。派手にやってやろう。

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