第8話 第2階層

ゆっくりと戻ってきた視界には、先程と同じように輝く石柱があった。ゴ治郎はゆっくりと辺りを見渡し、俺の指示を待つように地面に腰を下ろした。


どうやら転移したようだ。石柱だけ見れば同じように感じるが、壁や地面の質が全然違う。さっきまでは普通に土だったが、今はゴツゴツした岩で出来ている。とてもじゃないが、シャベルで掘り返すなんて出来そうにない。


やはり階層があったのだ。裏庭に繋がっていた部分を第1階層とすると、第2階層は完全に別の空間だ。


今のところ、モンスターは現れていないが油断は出来ない。この部屋から出た途端に襲われる可能性もある。


「ゴ治郎、慎重に進め。何が出てくるか分からん」


「ギッ」


立ち上がったゴ治郎は、そっと部屋から首を出して外の様子を窺う。よし、何もいない。


「行け」


部屋から素早く出たゴ治郎は曲がり角まで一気に進み、またそっと首を出して様子を窺う。


「うん?」


ゴ治郎の視界に一瞬、影が映った。あまりの速度にうまく認識出来なかったが、敵には違いない。第1階層では全く危険を感じなかったが、やはり第2階層は難易度が違う。


「いざとなったら戻す。思い切って、行ってこい」


「ギッ」


神妙に返事をしたゴ治郎が、ゆっくりと一歩踏み出す。


何も起こらない。


もう一歩。


大丈夫だ。


もう一歩。


何も出てこない。さっきの影はもう行ってしまったのか? 今まで感じることのなかった緊張感に心臓の鼓動が速くなる。ゴ治郎も同じだろう。


「よし、今日のところは──」


「グギャ!」


物凄い勢いで何かが飛び込んできて、ゴ治郎の持つ龍の剣を跳ね上げた。危うく落としそうになるが、なんとか耐えて構えて直す。


「ヒヒヒ」


耳障りな声がしたと思うと、またも剣が逸らされて今度は視界が激しく回転した。ゴ治郎が倒されたのだ。


「ゴ治郎!」


「グ、グギャ……」


なんとか立ち上がろうとする視界に映るのは、赤い帽子を被ったゴブリンだ。ゆっくりと腰のナイフを抜き、ニタニタと笑いながら近づいてくる。


「ヒヒヒ」


「ギギッ!」


渾身の力で踏み込んだゴ治郎の一撃はスッと半身になった赤帽子に躱され──。


「もういい! 戻れ!」


悲鳴を上げながらゴ治郎の視界は暗転した。

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