白と黒 -02 : new world-

更科灰音

第1話:誕生

おぎゃあ

「可愛らしい女の子ですよ、綺麗な黒髪に黒曜石のような瞳。将来美人が約束されたようなものですね」

おぎゃあ



「名前は決まりましたか?」

おぎゃあ?

「我が娘の名前はヒルデ、ブリュンヒルデ・ディア・ダージリンだ」

おぎゃあ!



「お乳の時間ですよ」

んくんく

げふぅ



5歳の誕生日に母様に連れられてお城にやってきた。

「ほら、ご挨拶なさい」

初めまして、ぶるんひるで・であ・だーじりんです。

ぺこり

目の前の男の子に挨拶してお辞儀する。


「こちらこそ、よろしくお願いします。ブリュンヒルデさん」

自分の名前がうまく発音出来ない。もっと簡単な名前でよかったのに。

「申し遅れました、私はアストリア・ジズ・アルストロメリア、この国の第4王子です」

王子様?あすといあ様?

金色の髪にサファイヤの様な瞳。綺麗・・・私なんて真っ黒なのに・・・

「綺麗な黒い御髪ですね」

綺麗?私の黒い髪が?

「何者にも侵されることのない真実の色、それが黒です」

そうなの?

私は自分の髪が嫌い。金色が良かった。

あすといあ様の髪はとても綺麗。

「人は自分にないものを求めてしまうものなんですよ」

それはわかる気がする。


「では、またお会いしましょう」

そういうとあすといあ様は部屋を出て行った。

私も母様に連れられてお屋敷へと帰る。

「良かったわね、王子様もあなたのことを気に入ったみたいよ?」

帰りの馬車の中であすといあ様が許嫁だと教えられた。

第4王子だから、王様になることはないと思うけど、公爵様にはなるはず。

「ブリュンヒルデは将来公爵婦人ね」

私、あすといあ様と結婚するの?

「そうよ、嫌われない様にお稽古頑張るのよ?」

ただの友達として紹介されたわけじゃなかった。

次の日から私は色々な習い事を始めた。



剣術、魔法、礼儀作法、もちろん読み書き計算も。

どれもこれも普通だった。苦手ではないけど、得意でもない。

「いや、まだ7歳だ。大人と比べて普通なら、それはすごいことなのだよ?」

父様はそう言って慰めてくれる。でも、何か得意なことが欲しかった。

実は職人系の才能があるのかも知れない。

そう思って、お稽古を増やしてもらった。

滑舌は少しマシになった。


鍛冶、料理、果ては錬金術まで手を伸ばしてみた。

しかし、どれも先生に匙を投げられた。壊滅的に才能が無いらしい。

再び戦闘系のお稽古に専念する。

今度は弓矢と斥候の技術も習い始めた。

「そんなに焦らなくても10歳の神託の儀で向いている職業を教えてもらえるよ」

そう、10歳になると教会で大司教様に鑑定してもらえる。

でも、それでは遅い。早めに自分の得意なものを見つけてそれを伸ばさないと。


父様は、黒騎士。母様は、黒魔導師。

どちらも黒の名前を冠した上位職業。私も同じ様に黒の職業が良い。

アストリア様が好きだって言ってくれた黒。その名のついた職業。

もちろん、父様も母様も黒い髪に黒い瞳。

もうじき5歳になる妹も黒い髪に黒い瞳。

ダージリン家は代々黒い髪と黒い瞳を受け継いできた。

何者にも侵されない純粋な色。真実の色。



9歳になってだいぶ季節も変わった。

冬が終わり、春になれば10歳の誕生日。もうすぐ神託の儀だ。

どんな神託が降るんだろう?

神託でどんな結果が出てもそれで全てが決まるわけじゃ無いけど、

一般的には人生はほぼ神託で決まってしまう。

どうか、父様や母様のような黒にまつわる神託が得られますように・・・

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