薔薇をあなたに

砂上楼閣

第1話

『一本一本に意味を込めて、


重ねた想いに願いを込めて、


あなたに薔薇を贈りましょう。』

忘れもしない、あの日の出会い、交わした言葉。


会う度に想いはつのり、あなたを思い出すだけで胸は高鳴った。


わずかな勇気をかき集めて贈った一輪の薔薇。


想いとは裏腹に正直になれない私の心。


「尊敬してます」なんて、本心だけど、本音じゃない。


◇◆

『束ねた薔薇は心を表すから、


出会う度に薔薇を束ねよう。


初めて送った一本の薔薇。


それに想いを重ねて贈りましょう。』

◇◆

窓辺に置かれた花瓶。


そこに挿された薔薇を見ていると胸が熱くなる。


「ありがとう」「綺麗だね」


それは私が言いたい言葉。


「少し寂しそう」「受け取ってもらえますか」


正直になれない私。


もう一度、想いをあなたに。

◇◆


◇◆◇

『初恋のあなたに、


尊敬するあなたに、


最愛のあなたに、


この薔薇を贈りましょう。


重ねた想いと薔薇は重みを増して、


束ねた心は熱くて、赤くて、情熱的で。』

◇◆◇

贈って、飾られて、その繰り返し。


小さな花瓶は大きくなった。


贈る気持ち、送る想い。


数えられた薔薇は重なり合って数えられなくなって。


贈る都度、想いがこぼれてしまいそうになる。


いつか花瓶からもあふれてしまいそう。


これ以上ない想いが、毎日更新される。


あなたには届いてますか?


私は今、幸せです。

◇◆◇


◇◆◇◆

『指先を撫でる尖った棘は、


チクリと胸を刺す言の葉で。


美しい花には棘がある?


痛いだけの棘なんていらない。


けれど、棘のない薔薇では物足りなくて。』

◇◆◇◆

色も、形も、香りすら。


一つとして同じものはありはしない。


どれもこれもが目を惹いて。


地に落ちた花弁すら愛おしい。


棘が指先を撫でる感触すらも、あなたを思わせる。

◇◆◇◆


◇◆◇◆◇

そっと捧げる淡い薔薇。


もうあなたは花瓶に挿してはくれない。


私自ら優しく捧げる。


嗚呼、どれだけ周りから疎まれようとも。


あなただけを愛しています。

◇◆◇◆◇

さようなら、愛しい人。


ありがとう、最愛の人。


私はあなたのもの、あなたは私のもの。


そっとあなたに捧げる薔薇に口付ける。


贈り、重ね、束ねてきたこの想い。


一本一本に込められたこの想いを。


思い出しながら、そっとあなたに手向けます。


傷付く指先、鼻腔をくすぐる薔薇の香り。


最後の一本はあなたの胸元に。


ありがとう、さようなら。


薔薇を、あなたに。


心を、あなたに…

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