カテリーナの奮闘記

※新興宗教については100%作者の妄想です。特定の団体を指したものではありません。

明るさの裏側

 

 カテリーナは前世から"普通"というものに縁がなかった。


 カテリーナが渇望してやまなかった"普通"の生活。普通の夫婦に生まれ、普通の学校生活を送り、普通に就職して、普通に結婚してさらに縁があればその人の子供を産み育てる。そして、普通に死ぬ事。


 前世では、そのどれも叶わなかった。


 ♦︎♦︎♦︎


 ドリュー侯爵家は、今日も自由だ。


 放蕩癖のあるカテリーナの父親のせいで、未だに現役で侯爵を務めている祖父ヘンドリクス・ドリューは、おそらくまだ六十代だろうに見た目はだいぶ老けている。カテリーナの母親は、幼い頃の流行病によりすでに亡くなっている。


 次期侯爵は父アーカスをすっ飛ばして、カテリーナの兄イザークが継ぐだろう。

 イザークは見た目も性格も厳格なヘンドリクスにそっくりで、今は王宮の文官として働いているらしい。イザークについては、歳の離れているカテリーナには詳しくはわからない。


 イザークは周囲からの期待や重圧にも全く動じる事なく、自分にも他人にも非常に厳しい。勿論、妹であるカテリーナにも平等に厳しいのだ。


 一方、締まりの無い顔をした父アーカスそっくりのカテリーナには、周囲はなぜか借金を踏み倒しまくっている父親に対しての恨み言まで言ってくる始末である。


 記憶が戻る前はそれなりに傷ついたりして、決してアーカスの様にはなるまいと必要以上に自分を律して過ごしていた。

 同年代の子よりも少し早く婚約が決まったのも、下半身のゆるさまで父親に似たら困るという理由だと、大変親戚がカテリーナに教えてくれたのだ。


 しかし、記憶が戻ったカテリーナにとって、前世と比べるとこの世界はだいぶ生きやすい。

 ジークハルトと結ばれない事は非常に残念だが、ストーリー通りに国外追放となるのは必要なものを用意した後ならむしろご褒美だ。


(まさか『溺愛クロス*ラヴァーズ』の世界に来ちゃうなんて……)


 ヒロインの立場でジークハルトを攻略していたから、カテリーナはとっても邪魔なキャラだった。

 でもセクシーで退廃的な魅力があり、脳筋のジークハルトとムッチリセクシーなカテリーナはお似合いだろうとも思っていたのだが、物事はうまくいかないものである。


 まだ十四歳のはずだが、栄養が全て胸にいっているのではと不安になるほど発育がいい。スチルで見たカテリーナはナイスバディだったので、きっとこれから身長も伸びていくのだろう。


 カテリーナは記憶が戻ってからというもの、邸の探索に勤しんでいた。祖父の執務室に忍び込み、代々の当主しか見ることが許されないドリュー邸の見取り図を紙に写し書き、隠し通路から秘密の部屋の場所まで全てを把握した。


 貴族令嬢であるカテリーナが簡単に侵入出来るとは、逆にドリュー侯爵家のセキュリティのガバガバ具合に不安になる。


 秘密の部屋には祖父から没収されたのであろう、アーカスの変装道具が大量に仕舞われており、変装に使えそうな服やかつらなどを三人分回収しておいた。


 イザークは例のお茶会以来、カテリーナが何やら屋敷内で暗躍している事は感づいていそうだったが、特に何も言われず今に至っていた。


 父親に似ている愚かな妹と呆れているのかもしれない。


 三人の手紙のやり取りはずっと続いていた。やはりオリヴィアは王太子の婚約者に、ミレイユも宰相の息子の婚約者になっていた。


 (なんて恐ろしい。これが強制力か……)


 差し障りない内容はこの国の言葉で、他の人に見られたらまずいものは日本語で便箋で書いてやり取りしていた。


 何回かイザークに「この文字は何だ」と聞かれた事があったが「遠い東国の文字らしいです。模様として使ってるだけなので、特に意味はありません」と、シレッと答えておいた。


 イザーク相手に『そもそも、人の手紙を勝手に読んでるんじゃないよっ!』という至極真っ当な意見は、とてもではないが言えないのである。


 三人での初対面から二ヶ月後、やっと次のお茶会の開催が決まった。場所はこのドリュー侯爵家だ。三人はある作戦を決行する事にしていた。


 まず、オリヴィアの魔法で侵入拒絶の結界と万が一の為に幻影魔法で三人がお茶を飲んでいる姿を再現した映像を部屋に映す。

 その隙に男の子として三人変装して隠し通路から外に出てヒロイン捜索と、市井の様子を見てくるというものだった。

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