未来への憧憬
『ひぃ……っ! 想像以上に最悪の事態……』
オリヴィアとミレイユは頭を抱える。まだ十年そこらしか生きていない……魔法も思う存分使えて貴族という高い身分にあり、例え王太子妃にならなかったとして、今後の未来に何の不自由があるというのか。
『……ねぇ、カテリーナ。そろそろお茶会がお開きの時間なんだけど、お願いッッ! 思い出した範囲でいいから、登場人物と今後の流れを是非お手紙で教えて下さいな。流石に、まだ全然死にたくないわ』
『あ、あの……私にも、ご迷惑でなければ是非教えてくださいっ! 何か流れを変えるいい算段が浮かぶかもしれませんし……』
二人の悲壮に滲む表情を見て、カテリーナは『もちろんッ!! あたしも死にたくないしね』と言いながら、ガッテン任せろと胸を叩いた。
『オリヴィア達にも絶対死んで欲しくないから、力の限りを尽くすよ』
三人娘は改めて互いに固い握手を交わした。
『よかった……多少教えてもらえるだけでも、だいぶ違うと思うから。ね、ミレイユ?』
『はい、その通りです。三人寄れば文殊の知恵ともいいますし』
『よーしっ! じゃあとりあえず、手紙は他の人に読まれても平気な様に日本語で書いて送るから、そのつもりでね! またお茶会があるはずだから、お互いの情報もその時交換しましょう』
三人で取り決めをして防音結界を外し「滞りなく和やかにお茶会が終わりましたよー」という雰囲気を作りだして、本日の怒涛のお茶会は終了した。
♦︎♦︎♦︎
解散してから、オリヴィアは公爵家の図書館へ向かった。良くても国外追放ならば周辺国について調べておく事が肝要だ。それに合わせて現在の市井の状況、謎に包まれている福音の資料を探すためだった。
(私は無駄に魔力が高いから、やっぱり冒険者かしらね)
この世界には各地にダンジョンがありその中には高レベルなモンスターがいる。その素材は高額で取引されており、冒険者は一攫千金を狙える夢のある仕事の様にも見える。
しかし、その実情はかなり安定とはかけ離れている。ダンジョン内での出来事は全て治外法権だ。真に実力のあるものでなければ、そもそも味方に寝首をかかれかねない。
オリヴィアは魔力も高く、簡単な魔法であれば苦労なく連続で使える。
これから無駄になるであろう王妃教育受ける位なら、各地の語学を学んだ方が数倍今後の役に立ちそうだ。
「国外追放……案外悪くないわ」
「何一人でブツブツ言ってるんだ?」
「ッ──ッッ!!!」
オリヴィアが思考の海に浸っていると、突然背後から声をかけられ驚きで肩が跳ね上がった。叫ばなかった事を褒めてほしい。
「ジーク……驚かせないでくださいませ」
後ろを見るとジークハルトが訝しげな顔をして立っていた。オリヴィアと双子のはずなのだが全く似ておらず、彼は短く刈り上げた赤毛に、意志の強そうな焦茶の切れ長の目でオリヴィアを見下ろしている。
「なにかご用?」
「いや、用事って言うか……今日、ドリュー家の娘もお茶会に来てたんだろ? どんな感じだったのかなってさ」
珍しくもじもじと歯切れ悪く話すジークハルトを見て、オリヴィアは呆れる。
(どうせヒロインが来たらカテリーナ捨ててそっち行くくせに!)
オリヴィアの精神が取り戻したばかりの前世の記憶に引っ張られるため、まだ何もしていないジークハルトに対しても怒りが湧いてしまう。
「カテリーナは、とーーっても美しくて心根も素晴らしい方でしたわ! あんな素敵な方とお友達になれて、誇らしい限りですの」
オリヴィアは「貴様がこれから逃す魚は大きいのだぞ」とジークハルトに遠回しに言って聞かせた。
「……お前、なんかいつもと雰囲気違うな。いつもなら"他人に興味ありません"って返してくるのに」
「!!」
ジークハルトの野性の勘は恐ろしい。筋肉バカの朴念仁に見えるが、意外とジークハルトは他人を良く見ている。
逆に、今まではオリヴィアの方が他人に関心などなかった。
『これからはそうはいかないわね』
「ん? なんか言ったか?」
「いいえ、こっちの話」
オリヴィアが王太子の正式な婚約者として周知されたのはこの五日後の事だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます