第2話 笑い葬式②

 早々に帰ろうとした私は、結局その後の会食にまで参加する羽目になった。

 遺族親族にわざわざ呼び止められて、「少しだけでいいので」などと言われてしまえば、代理の身で固辞するのもはばかられる。

 電車の時間を理由によっぽど帰ろうとも思ったのだが、朝からまともに食べていない空きっ腹には、ただ飯の魅力は抗いがたいのも事実だった。


 何十畳とある大きな和室の広間には、まるで旅館の宴会席のような場が設けられていて、ご馳走が一つ一つの席にきちんと並べられている。既に会食は始まっていて、各々が自由に飲み食いを始めているようだ。

 広間の端の方の席に案内された私は、ぺこぺこと両隣の人間に頭を下げながら、座布団の上に腰を下ろして一息吐いた。

 左手では恰幅の良い中年の親父が周りと大声で笑い合っていて、一方の右手には料理にまるで手を付けず、静かにお猪口ちょこを傾げる若い女がいる。

 はっとするとか、目の覚めるようなとかの表現がぴったりな程に、彼女は美人だった。少しの間、見惚れてしまっていたくらいだった。

 会食に参加できて、むしろよかったかもしれない。などと間の抜けた事を考えながら、ちらりとテーブルに目をやると、空になったと思しき徳利とっくりが何本も並んでいる。

(とんだ蟒蛇うわばみ女だ!)

 通夜振る舞いのただ飯にあずかろうとした身で言えた事でもないが、よくまああれだけの酒を飲めるものだ。

「おい、あんちゃん。全然飲んでねえじゃねえか」


 

 

 

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