第22話 時橋 夜光⑨
昼奈がくたばり・・・リョウは壊れた。
復讐を終え、俺は愛する夕華と結ばれて幸せに暮らしましたとさ……。
なんて形で終わればよかったんだけどな……。
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「ただいま・・・」
「おかえり・・・遅かったね」
「うん。 ちょっと会議が長引いちゃって・・・」
「そうなんだ・・・俺、1日中ゲームしてたから頭痛いわ」
「そうなんだ・・・あっすぐご飯にするね」
「頼むよ。 腹減ったな~」
夕華と同棲してからというもの、俺はニート万歳な生活を送っていた。
家にいるからといって家事などいっさいせず、夕華がやっている。
今みたいに残業で疲れ切っていても、彼女は嫌な顔せずに俺に尽くしてくれる。
部屋が汚いと言えば掃除をし、腹が減ったと言えば疲れ切っていても食事を作ってくれる。
ゲームや漫画など、欲しいものがあると言えば、金を恵んでくれる。
俺に対する罪悪感か・・・俺に対する愛情か・・・それはわからないが、
夕華は俺中心の生活に満足していることはわかっていた。
だが、俺は夕華に感謝したことなど1度もなく、女が惚れた男に尽くすのは当然のことと割り切ってしまていた。
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「ねぇ、夜光。 ここの所、あんまり抱いてくれないけど、気分でも悪いの?」
「いや・・・最近通い始めた空手教室の練習がきつくてな。 結構体力を持っていかれるんだ」
「そうなんだ・・・あんまり無理しないでね?」
「あぁ」
なんてもっともらしいことをベッドの上で言ったが、実際は違う。
夕華と同棲を始めてから2年くらいかな?・・・俺は別の女と関係を持つようになっていた。
女を漁る場は主にマッチングアプリ・・・出会い系に使われる一般的なものじゃなく・・・行ってみればセフレ用に使われるヤバめのアプリ。
昔は外に女を狩りに出るのが男の上等手段だったが、今ではスマホ1つで女と出会うことができる。
全く便利な世の中だぜ。
なぜそんなことをしたかというと、理由は単純・・・夕華の体に飽きてしまったからだ。
初体験の相手だから、特別枠ではあったけど、何度も体を重ねていく内に、飽きがきてしまった。
だが、内なる性欲は毎日のように湧き上がってくる。
そのはけ口を求めてたどり着いたのがマッチングアプリ。
そこに登録されている女は幅広く、20代のOLもいれば、10代の学生もいる。
中には家庭を持つ主婦までいるんだから、世も末だ。
俺はそのアプリで片っ端から女を探しては食う毎日を、夕華に隠れて過ごしていた。
まあ、仕事もせずに女の金で生活しているヒモ野郎だからこそできることだ。
ちなみに空手道場に通っているのは本当。
強姦事件でリョウ達に取り押さえられて何もできなかったことを教訓にして、体を鍛えようと思いついたのがきっかけ。
それなりに力はついて腹筋も割れたが、空手そのものには何の興味もない。
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「お兄さんの・・・最高だったわ」
「当然だろ?」
「私、お兄さんの体にはまっちゃった・・・来週、ほかの男とヤルつもりだったけど、お兄さんに変更するわ」
「嬉しいねぇ・・・」
こんなように、女達の俺への評判はかなり良かった。
クソビッチ女の遺伝か・・・そっち方面のテクニックは夕華と行為を始めてからは、かなり上達した。
リョウ達がバカにしていた俺のエモノも今じゃ、ビッグマウン・・・いや、やめておこう。
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「ねぇ、夜光。 今度の休みに2人で旅行にでも行かない?
ちょうど有給が溜まってるから・・・」
「そうだな・・・せっかくだし行くか」
俺を信じ切っている夕華は浮気のことには全く気付かず、浸かり気味(ほかの女と寝たため)の俺の心身を気遣ってくれた。
かなり上のポジションにいる分、彼女の疲労は相当なものだろう。
だが俺は、夕華に感謝しないどころか、この時の旅行先で夕華を放って旅行者の女に手を出した。
今思えば、感性バグってるな・・・俺。
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だけど、そんな夢みたいな生活も終わりを告げる日がきた。
「大丈夫なの? 同棲中の彼女がいるんでしょ?
「大丈夫。 あいつ今日は仕事だから。
夜まで帰ってこないよ」
「そうなんだ・・・っていうか、お兄さんひどいね。
彼女の部屋で女2人とヤルなんて」
「ここでヤル方が背徳感あっていいじゃん」
「うわっ! さいて~」
俺は夕華の留守を狙い、マッチングアプリで知り合った女2人を自宅に誘った。
俺が夕華のベッドを選んだのは、背徳感もあるけど・・・彼女はもっぱら俺のベッドで寝るため、こっちのほうが気付かれづらいという姑息な考えもあった。
※※※
それから俺は2人と交わり始めた。
夕華への裏切りがスパイスとなり、得られる快楽は普段よりも強く感じられる。
それにハマった俺は最近よく似たようなシチュエーションで楽しんでいる。
これじゃあリョウの奴と変わらないな・・・いや、それ以下かもしれない。
※※※
バタンッ!!
行為の最中、部屋のドアが勢いよく開いた。
そこにいたのは、この世の絶望を見たように青ざめた顔を浮かべていた。
それはまあ理解できたが、その隣にいる男が気になった。
「えっ!? 彼女!?」
「やばっ!! 修羅場じゃん!!」
2人は息苦しい空気を感じ、急いで服を着始める。
まあ俺もこの状況で続きを楽しむほど、メンタルは鋼じゃない。
「チッ!」
悪態をつきながらも、俺は服を着る。
※※※
その後、2人はそそくさと自宅を飛び出していき、
俺はソファーにふてくされ、タバコを吸って心を落ち着かせる。
夕華と男は俺を挟み込むように立つ。
「夜光・・・今の人達は誰?」
「マッチングアプリで知り合ったただのセフレ」
「マッチングアプリ? そんなのいつの間に・・・」
「ずっと前から」
「なんでそんなことしたの?」
「お前を抱くのにに飽きたから」
悪びれもせずに淡々と返す俺の態度に、夕華は涙をこぼし始めた。
「私のこと・・・嫌いになったの?」
「嫌いっていうか・・・そもそもお前を好きになったっけ?」
「私の事、愛してるって言ったじゃない!!」
必死に訴えてくる夕華に、俺は哀れなものを見る目でため息と共に煙を吐き出す。
「お前さぁ、リップサービスって言葉知ってる?
だいたい愛してるなんて言われただけでその気になる方がおかしいだろ?」
「私・・・夜光のこと、心から愛してるよ? だから今までずっと夜光に尽くしてきたのに・・・なのに・・・」
「だったらなんだ? 俺のことを捨てるか?」
「・・・」
「ククク・・・できないよな? 10年以上愛し続けた男を切り捨てるなんて・・・心優しいお前には、できないよなぁ?」
煽るように上から目線で物を言う俺の態度に、夕華は若干の怒りを見せた。
まあ夕華に捨てられたら、俺は一気にホームレス生活に落ちる。
それでもこんなに大きく出られるのは、夕華の心情を知り尽くしているからだ。
こいつは俺を見捨てられない。
浮気は許せないが、俺を切り捨てることはできないと確信していた。
惚れたら負けとはよく言ったものだ。
「お願い・・・もうこんなことはしないで・・・さっきのことは許すから・・・」
「嫌だね。 お前が泣こうが喚こうが、俺は女とヤり続ける。 それが嫌なら俺を切り捨てたらいい。
ただし、切り捨てたらお前のヤバイ写真をネット上にばらまくから」
ヤバイ写真というのは、もちろん夕華の裸や行為中の写真だ。
万が一のための保険として持っているが、夕華が本気で俺を切れ捨てれば、ばらまく気でいるのは本当だった。
「じゃあ俺、別の女と寝てくるわ」
俺はふてぶてしく立ちあがり、堂々と浮気宣告をして立ち去ろうとする。
「まっ待って!!」
「離せよっ!!」
俺は腕にしがみつく夕華の手を振り払った。
その衝撃で夕華が床に倒れると、今まで黙っていた男が俺の手を掴んだ。
「なんだ? テメェ・・・」
「彼女に謝れ・・・」
「は? っていうかさっきから気になってたんだけど誰だ?お前」
「誠児だ。 子供の頃、よく遊んだだろ?」
「そんな奴いたようないなかったような・・・まあ、どうでもいいや。 そんで? 何しに来た訳?」
おぼろげな言い方だが、俺ははっきりと誠児を覚えていた。
だが、子供の頃の友人等、俺にとってはほとんど他人同然だった。
「お前の話をしに来た・・・でも今は、彼女に謝る方が先だ」
「なんで俺が謝らないといけない訳?」
「お前は彼女の心を深く傷つけたんだ。 だから謝る! 人として当然の責務だろ?」
「意味が分からないな。 何? もしかしてお前、夕華に惚れてんの?」
「くだらない戯言に付き合う気はない。 とにかく謝れ!
彼女はお前の大切な家族なんだろ?」
俺の挑発に乗ることはなく、誠児は俺に詰め寄ってくる。
その態度に俺はいら立ちを覚えた。
「お前には関係ないだろ? とっとと離せよ」
「断る・・・」
「なら仕方ないな・・・!!!」
俺は誠児の顔目掛けて、拘束されていない手で拳を放った。
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