第14話 時橋 夜光⑧

 話は昼奈のレイプから2日後までさかのぼる。

俺は神奈の家を訪れていた。

学校と元自宅を行き来する際、こいつの家の前を通っていたから場所は知っていた。

神奈とは顔見知り程度の関係だが、孤児院出身のわりには俺と普通に接してくるレアな女だ。


「すみません」


 俺はインターホンを押し、家の中の人間を呼び出す。


「はーい・・・」


 幸か不幸か、出てきたのは神奈だった。


「あっ・・・時橋君・・・」


 神奈は俺の顔を見た瞬間、顔を引きつっていた。

まあ、目の前に強姦魔がいれば、そうなるのも無理はない。


「突然、ごめん。 真野さんに見せたいものがあるんだ」


「うっうん。 どうぞ、上がって」


 俺はなんとか神奈の家に入ることができた。

リビングに案内されると、そこには神奈の父親と母親がそろっていた。

両親と言う強い味方がいるのなら、神奈があっさり俺を招き入れたのも納得できる。


「お邪魔します・・・」


「やぁ、いらっしゃい」


「ゆっくりしていってね」


 一見歓迎してくれたように聞こえるが、目は明らかに俺を警戒していた。

まあ、俺にはどうでもいいことだがな。


「それで、見せたいものって?」


 互いにソファの上に座り、神奈は本題を問う。

両脇には両親が我が子を守るかのように座っているのが、癪に障る。


「実は・・・ネットでこんな動画を見つけたんだ」


 俺はスマホで例の動画(元の方)を3人に見せた。

最初の昼奈とリョウの情事で神奈は涙目になり、両親は信じられないと言わんばかりに、顔が真っ青になっていた。

続いて流れたサッカー部と高橋のレイプ動画を目の当たりにすると、3人共目をそらした。

まあ、音声が嫌でも聞こえるがな。


「とっ止めてくれ!」


 神奈の父親にそう言われ、俺は動画を停止した。


「こっこんなの、何かの間違いよ! きっとフェイク動画かなにかよ!」


「そっそうだ! リョウ君に限って、二股なんて・・・なあ、神奈」


「うん・・・私、リョウを信じる」


 まあ、これは想定内の反応だ。

だが動画の存在を知らしめることはできた。


「そうですか・・・じゃあ、真野さん。

連絡先を交換してくれませんか?

僕も西岡君がこんなことをするとは思っていません。

何かわかったら、連絡しますから」


「うん・・・」


 俺はそう言って神奈の連絡先をゲットした。

ここで無理に言い寄っても無駄だ。

俺は一旦引いて、あの動画が表沙汰になるのを待つことにした。


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 そして動画が多くの人間の目に止まり、リョウは浮気野郎として有名になり、サッカー部と高橋は逮捕。

昼奈は交通事故死。

まあ、これはもう語るまでもないか。


----------------------------------------------------


 後日、俺は神奈と連絡を取り、"直接話をしよう”と再び家に上げてもらった。


「・・・リョウのこと・・・信じてたのに・・・」


 神奈はリョウの浮気の事実を知り、ソファで顔を伏せて泣きじゃくっていた。

俺が来る前にリョウが神奈の家を訪ねたようだが、神奈は平手打ちを喰らわせて追い払ったそうだ。


「もう私、何を信じていいのかわからない」


 ポタポタと涙を流す神奈の肩に俺は手を回す。


「つらかったね・・・俺でよければ力になるから、もう泣かないで」


 ありきたりな言葉を並べ立て、俺は神奈に胸を貸した。

神奈は俺の胸の中で、悲しみの声を上げながら涙を流し続けた。

俺が神奈に寄り添ってやっているのは良心的な行動と言う訳じゃない。

リョウの奴が孤児院時代から、神奈に惚れていたのは気付いていた。

ガキの頃が結構わかりやすい性格していからな。

神奈の家の前を通る際、学校帰りのリョウが昼奈に隠れてこそこそ自宅とは反対方向にある彼女の家に入り浸っているところを何度も見ていたし、神奈の部屋にはリョウからもらったと言う高そうな服がクローゼットにずらりと並んでいた。

昼奈には安っぽいハンカチで細かいしてた癖に。

だから俺は確信していた。

”リョウは本気で神奈に惚れている”と。

そして、俺はささやくように神奈の耳に言葉を吹きかける。


「神奈・・・リョウに裏切られて悔しくないか?」


「・・・」


「リョウのことを許して2人でやり直そうとしても、あいつは必ず同じことを繰り返す」


「・・・」


「かといって、このまま何もせずに別れてしまったら、あいつは別のところで女を作り、お前みたいに傷つく女がどんどん増えていく。 お前のことなんてきれいさっぱり忘れてな」


「・・・許せない。 そんなの絶対・・・」


「リョウにお前の受けた苦しみを味合わせてやりたいと思わないか?」


「うん・・・でも、どうすれば・・・」


「簡単なことだ。 俺と寝て、リョウにその事実を伝えてやればいい」


「そっそんなことで・・・」


「遊びだろうが付き合っている女がほかの男の物になるのを快く思う奴はいねぇさ」


 俺はリョウの気持ちに関しては伏せることにした。

リョウが本気だとわかれば、神奈の心が揺らぐ恐れがあるからな。


「でっでも・・・」


 今までリョウ一筋で通してきた神奈にとって、

奴以外の男を受け入れるのは抵抗があるみたいだ。


「いいじゃねぇか。 リョウは散々女遊びを楽しんできたんだぜ?

なのにお前だけ一途を貫くなんて不公平だろ?」


「・・・そうだよね。 私を裏切ったんだから、リョウには罰を受ける義務があるよね?」


※※※


 そして、俺は神奈を駅前のラブホテルに連れて行き、彼女を抱いた。

最初はかなり罪悪感を感じていたみたいだったけど、途中からどんどんヒートアップしていき、

最後にはバカ丸出しの顔で俺との情事を自ら楽しむようになった。

夕華との行為で鍛え上げられた俺のテクニックにはまったのか、今までのリョウとの行為に相当不満を持っていたのか、まあどっちにしても、リョウには一生拝められない光景だろうがな。


※※※


 そして、俺と神奈の熱が最高潮にまで達成すると、神奈を使ってリョウを彼女の家に呼び出した。

まあ、家には誰もいないけどな。

それに気付いたリョウがもう1度電話してきた時に、俺と神奈が交わっていることを伝えてやった。

さらには、快楽で頭が狂っている神奈がリョウに対して男の尊厳を打ち砕く罵声を浴びせていた。

おしとやかそうな顔しといておっかない女だぜ。

リョウは電話越しでもわかるくらいに動揺していた。

俺は神奈の妊娠をほのめかすようなことを口走った後、電話を切ってやった。

今のリョウなら、ドアをぶち破ってでも行為を中断させるだろうな。

まあ、そこで何をしても俺と神奈は何も問題はないけどな。


※※※


案の方、奴は不法侵入を犯していやがった。

そのまま檻の中にぶち込まれると思っていたが、まさかベランダから飛び降りたのは意外だったな。

奴が飛び降りた後、その様子を偶然見ていた近所の人間が救急車を呼び病院に運ばれたらしい。

頭からコンクリートで固められた地面に落ちたって言うのに、リョウはしぶとくも生き延びていやがった。 

だが後遺症で両足が動かなくなり、一生車いす生活が決まったと言う。

サッカーの才能もこれで永遠に開花することはなくなったな。

不法侵入と器物破損のダブルコンボで神奈の両親はさすがに被害届を出したみたいだ。

リョウは見事前科持ちになり、神奈に2度と近づけられないように接近禁止令を出された。


----------------------------------------------------


 リョウが飛び降りた半年後、俺はあいつのいる病院にお見舞いという建前で来てやった。


「よう、気分はどうだ?」


「おっお前・・・」


 リョウは俺を見た瞬間、殺気に満ちた目で俺を睨んだ。

怒りに任せてベッドから飛び起きるが、それで足が動くはずもなく、ベッドから落ちやがった。


「時橋ぃぃぃ・・・ぶっ殺してやるぅぅぅ!!」


「おいおい、ケガ人は大人しく寝とけって」


 リョウは這いつくばって俺に近づいてくるが、正直無様にしか見えない。


「それよりお前に見舞い品を見せてやるよ」


 俺はスマホの画面をリョウに向け、ある動画を流した。


『最高ぉぉぉ!!』


 そこに映っていたのは、男と体を重ねている神奈だった。

相手の男は俺もリョウも知らない若い男。

しかも相手は1人だけじゃない。

動画が変わるたびに、神奈は別の男と行為に及んでいる。

中には一変に複数の男と楽しんでいる神奈の姿も映っている。


「かっ神奈・・・なのか?」


「俺と寝た後、本格的に男の快楽にはまってさ。 お前が飛び降りた日から男を取り換えるビッチになり下がっちまったぜ?

まあ、散々お前のつまんねぇモンをくわえさせられていたからな。

タガが外れたんだろうぜ?」


『親子丼ゴチでーす!』


『かっ神奈ちゃん!! 行くぞぉぉぉ!!』


『神奈お姉ちゃん! もっとしてぇぇぇ』


「なっ!!」


 神奈はあろうことか、リョウの家族であった西岡総一郎とカケルにまで手を出していた。

2人もまんざらでもないみたいだな。


「おっおえぇぇぇ・・・」


 愛していた女の変わり果てた姿を目の当たりにしたリョウは、俺への怒りが一気に絶望へと変わっていった。

床に腹の中の物をぶちまけやがった。


「吐くことないだろ? お前だって今まで散々同じことをやってきたんだからさ」


 とは言っても、正直神奈のこの豹変は俺も予想外だった。

この動画も神奈が撮ったもので、リョウに見せつけてほしいとわざわざ俺のスマホに送ってきやがった。

動画の足にされたのは少し癪だったが、リョウのマヌケ面を拝められた俺にはおつりを出したくなるほど気分が良かった。

足を失おうがネットで叩かれようが、リョウに対する恨みは消えていないみたいだな。

つくづく性格の良い女だぜ。


「うっ嘘だ・・・神奈がこんな・・・こんなことを・・・」


「言っておくが、これは神奈が自分で望んだことだ。

もうあいつにとって、男は快楽を満たすための道具でしかないんだよ」


『いぇーい! リョウ君、見てる?

私、男がこんなにいいものだなんで知らんかったよ!

今までリョウ君一筋だった自分がバッカみたい!

今度、リョウ君の同級生だった人達とヤルから、また動画送るね?』


『おい神奈、いつまでやってんだよ。 早くやろうぜ?』


『はいはーい!じゃあーね! つまんなかったリョウ君!』


 そのメッセージを最後に、動画は終了した。


「うっ・・・うわぁぁぁぁぁ!!」


 狂ったようにじたばたを暴れ出したリョウの哀れな最後を目に焼き付け、俺は病室を後にした。

その後、リョウは完全に心を壊し、会話もままならない廃人同然となってしまったと言う。

だが、奴の身を案じる人間は誰1人現れず、”現在”でも精神病棟の中で孤独に生き続けている。

蛇足だが、男遊びにはまった神奈は数年後に勢いで複数の既婚者に手を出し、それがバレて莫大な慰謝料を背負ってしまい、水商売に落ちたと言う。

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