第7話 時橋 昼奈①
私の名前は時橋 昼奈。
私には5人の家族がいる。
父の深夜と母の朝日と妹の夕華・・・そして、義弟の夜光。
夜光はお父さんの知り合いの紹介でウチに養子としてきた。
「私昼奈! よろしく!」
「・・・夜光です。 よろしく」
来たばかりの頃の夜光は口数がとても少なく、あんまり家族になじめていなかった。
口調も敬語混じりであんまり家族として意識されていなかったっぽい。
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「昼奈さん。 お母さんが食事の用意ができたと・・・」
「うん、ありがとう。 っていうか、昼奈さんなんて他人行儀だよ。
私のことはお姉ちゃんって呼んでほしいな」
「・・・はい」
ちょっととっつきにくいけど、私にとっては初めてできた可愛い弟。
少しでも家族として接していかなくちゃ!
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そんな夜光と私が心の距離を近づけたのは小学生の頃……。
「あっ! 夜光」
「・・・どうも」
下校途中に横断歩道の前で信号を待っていた夜光にばったり会った。
まあ、家が同じだからおかしいことじゃないけどね。
私は夜光の隣で一緒に信号を待つことにした。
・・・その時だった。
私と夜光に向かって1台の車がすごいスピードで突っ込んできた。
「危ないっ!!」
私はとっさに夜光を突き飛ばし、彼を安全圏に逃がすことができた。
でも私は逃げ遅れ、そのまま車にひかれてしまった。
体中から血が流れているのに、不思議と痛みはあんまりなかった。
「(夜光・・・)」
私はそのまま意識を失ってしまった。
※※※
気が付くと、私は体中を包帯でグルグル巻かれた状態で病院のベッドで眠っていた。
手にはチューブ付きの注射針を刺され、口には人工呼吸器をつけていた。
駆け付けてくれたお父さんとお母さんの話だと、あのあと私はすぐに救急車で病院に運ばれて治療を受けて、3日間くらい眠っていたんだって。
打ちどころが悪かったら死んでいたかもって言われた時は怖ったな・・・。
あっあと、私を引いた車の運転手は泥酔してたってあとで聞いたな。
いわゆる飲酒運転って奴だね。
「・・・」
お父さんとお母さんを横目に、私の視線は顔や腕に大きな絆創膏を数枚張っている夜光に写った。
「・・・突き飛ばしたりして、ごめんね?」
助けるためとはいえ、夜光にケガをさせてしまった私の口から出た言葉に夜光は驚いた様子を見せた。
「ううん・・・助けてくれてありがとう・・・お姉ちゃん」
涙ながらに私の手を優しく握る夜光が、初めて私をお姉ちゃんって呼んでくれた。
それだけでも、このケガは無駄じゃなかったって思えたな。
それをきっかけに、夜光は少しずつ私に心を開いてくれて、高校生になった時には、敬語は全く使わなくなり。私以外の家族も家族として接してくれるようになってくれた。
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夜光が本当の家族になってくれたのは嬉しかったけど、私には悩みがあった。
「西岡君! いい加減、夜光に嫌がらせをするのはやめて!」
「なんだよ、いきなり・・・それに俺は嫌がらせなんかしてないぜ?
そいつのくせぇ体に愛用の香水を掛けてやっただけだ。
「原液を頭から掛けておいて、ふざけたこと言わないでよ!」
夜光の同級生の西岡リョウ君。
彼は夜光と同じ孤児院で育った孤児なのに、夜光に対して毎日のよういじめている。
学校の先生やクラスのみんなは暴力をふるっている訳じゃないからって、ただの悪戯として認識している。
そのせいで、夜光がいじめを受けているところを目撃しても、みんなへらへら笑っているだけで誰も助けようとしない。
夜光は報復がこわいのか、ほとんど何も言わないからあんまり大事にはならない。
お父さんとお母さんにも相談してみたけど、2人が学校に話をしに行っても、学校は”いじめはない”の一点張り。
いじめの証拠をスマホに収めればいいんだけど、目の前で夜光がいじめられるのを見ていると、そんなことを考える余裕なんてすぐなくなる。
もちろん西岡君本人にも会うたびに注意を促してはいるんだけど、あんまり効果はないみたい。
いじめ専門の相談窓口にも相談することも考えたけど、証拠もなしに信じてくれる訳はないと思って行かなかったんだ。
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ある日、私は女友達と一緒にお気に入りのライブを見に行った。
ライブが終わり、友達と別れて1で帰る途中、チャラついた男達が私達を突然取り囲んだ。
「なっ何ですか!? あなた達は!」
「そんな怖い顔しないでさぁ、一緒に遊びに行こうよ」
男の1人が私の腕を掴んだ。
口ぶりからしてナンパ目的なのはすぐわかった。
「はっ離してください!」
「そんな冷たいこと言わないでよ~。 ちょっと遊ぶだけだからさ!」
こういう奴らに捕まったら、何をされるかは目に見えている。
私は必死に男の手を引きはがそうとするが、やっぱり力じゃなかわない。
「おいっ! 何してんだ!?」
そう言って私の掴まれた手を解放してくれたのは、夜光をいじめていたあの西岡君だった。
「なんだテメェ!?」
「彼女が嫌がっているだろ? ナンパならよそを当たれ」
「お前には関係ねぇだろ!? ガキは大人しく帰りな!!」
「ふっ!」
男は西岡君に向かって拳を放つが、西岡君はすばやくかわし、男のみぞおちに蹴りを入れた。
サッカー部のエースである西岡君の蹴りはかなりの威力だったみたいで、男はお腹を押さえて倒れてしまった。
「野郎っ!!」
ほかのナンパ男達も西岡君に襲い掛かっていくが、西岡君の速さにはかなわず……。
「いでっ!」
「あがっ!」
西岡君はナンパ男達の攻撃を交わしつつ、自慢の足による蹴りで反撃に出る。
「まだやるか?」
「ちっちくしょう! 覚えてろ!!」
ナンパ男達はそんな捨て台詞を吐いて逃げて行った。
「うっ!」
「西岡君っ!」
彼らを撃退した後、西岡君が膝をついてしまった。
私が急いで駆け寄ると、彼は右足を抑えていた。
「どうしたの!?」
「ちょっと足を痛めただけさ。 ハハハ・・・慣れないケンカなんてするものじゃないね」
「大丈夫? 立てる?」
「少し休めば平気だよ。 時橋さんこそ大丈夫?」
「私なら大丈夫。 でもなんで、私を助けてくれたの?」
「たまたま見かけただけさ。 特別な理由なんてないよ」
「・・・ありがとう」
その後、西岡君は足を引きづりながら私を家まで送ってくれた。
悪いよって断ったんだけど、彼は「またあいつらに襲われたら大変でしょ?」と言ってくれた。
道中、西岡君は「また何かあったら連絡して」に連絡先を交換してくれた。
そんな優しい彼を一瞬王子様のように見えたんだけど、同時に思った
「(こんな優しい人が、どうした夜光をいじめるの?)」
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翌日の学校で、私は西岡君を呼び出した。
「西岡君、足は大丈夫?」
「痛みは感じないけれど、しばらくサッカーを休んで様子を見ないといけないみたい」
西岡君は足に巻いている痛々しい包帯を私に見せた。
「ごめんなさい・・・」
「気にしないで。 俺が勝手にやったことなんだから」
そうは言うが、ウチのサッカー部はもうすぐ開催される地区大会に参加する予定になっている。
もしエースの西岡君が出場できなかったら、チームにとっては大打撃になる。
「話はそれだけ?」
「ううん。 西岡君に聞きたいことがあるんだ」
「何?」
「私を守ってくれた西岡君が、どうして夜光に嫌がらせをするの?」
「・・・」
「大事な足を痛めてまで私を守ってくれたあなたが、夜光にあんなことをする意味がわからない」
「・・・今から言うこと、時橋には言わないって約束してくれるなら、話すよ」
「うん・・・」
神妙な表情で顔を伏せる西岡君。
普段クラスをしきるリーダーみたいな彼らしくないと感じた。
「俺と時橋が同じ孤児院で育ったことは知ってる?」
「知ってるよ?」
「実は俺・・・”時橋に”いじめられていたんだ”」
「えっ!?」
「俺を生んでくれた母親はさ、結構浮気者で、そのうちの誰かから感染した性病で死んだんだ。
時橋はそれを知って、俺をばい菌呼ばわりして周りから孤立させていたんだ」
「そんな・・・」
「お互い別々の家に引き取られてほっとしていたんだけど、まさかあいつと小学校で会うとは思わなかったよ」
「・・・」
「あいつの顔を見ていたら、昔のことを想い出してしまって・・・あいつも同じ苦しみを味わえばいいと思って・・・全くガキっぽいな、俺」
「・・・本当に夜光がそんなことしたの? 私には信じられない・・・」
「無理もないさ・・・でも、事実なんだ」
「じゃあなんで、今まで言わなかったの?」
「・・・何も知らなければ、俺がただのひどい奴ってことになるだろ? でも事実を知れば、君は時橋を責めるかもしれない・・・俺は時橋を憎んではいたけど、家族の仲を裂くようなことはしたくなかったんだ」
「どうして?・・・」
「・・・好きなんだ。 時橋さんのこと」
「えっ!?」
突然の告白に、私は耳を疑った。
だって今まで対立していた西岡君が、私を好きって行ったんだよ!?
「こんな時に言うべきことじゃないのはわかってる・・・でも、好きなんだ。 君のこと」
「そっそんなことを言われても・・・」
「そうだね・・・どんな理由があろうと、俺が時橋をいじめたのは事実だ・・・本当にごめん」
西岡君は私に土下座して謝罪の言葉を述べてきた。
サッカー部の期待を背負っているエースにとっては屈辱的なこと、
「今後2度と、時橋をいじめるようなことはしないって誓う! もちろん、時橋さんが俺を嫌っていても、この誓いは破らない・・・その代わりと言ってはなんだど、1つお願いがあるんだ」
「何?」
「俺の謝罪を、君から時橋に伝えてほしいんだ」
「どうして? 直接あなたが謝れば・・・」
「そうだんだけど・・・あいつに頭を下げるのは、ちょっと心苦しいんだ。
それにあいつを前にすると、昔のことを思い出して・・・つらいんだ」
ちょっと前までの私なら、夜光に謝罪してくないなんて言ってきたら、怒鳴っていたかもしれない。
でももし、今の話が本当なら、西岡君もある意味被害者だ。
恨みを抱いている相手に頭を下げたくないと思うのも、無理はないのかもしれない。
「聞いていい?」
「・・・何?」
西岡君はゆっくりと顔を上げた。
私は彼の目を見てゆっくりと口を動かす。
「本当に私のことが好きなの? 私にはそんな魅力なんてないと思うんだけど」
「そんなことはない! 君は裏表のない美しい女性だよ?
そうでないと、こんなに君を好きになんてなれないよ」
私の胸はドキドキしていた。
自慢に聞こえるかもしれないけど、私は今まで告白を受けことは多少ある。
でも、誰1人としてときめいたことはなかった。
魅力がないわけじゃないけど、パートナーとしてそばにいてほしいとまでは思うことはなかった。
だからこそ、西岡君の告白にときめいている自分に驚きを隠せない。
西岡君は夜光をいじめていたひどい男だけど、彼なりの事情があったんだ。
根拠はないけど、西岡君の誠意ある態度と言葉に、偽りがあるとは思えなかった。
それがなくても、私をナンパ男達から助けてくれたのは事実。
彼の強い面ともろい面を目の当たりにして、私の彼に対するイメージは大きく変わった。
「時橋・・・いや、昼奈! 俺のこの気持ち・・・受け取ってくれるかい?」
西岡君は立ち上がると同時に、私の手を握りしめた。
その温かな手が、私の顔をほんのりと赤く染めた。
「・・・本当にもう、夜光をいじめたりしない?」
「あぁ・・・絶対にしない。 ほかのみんなにも俺から言っておく。
・・・それで、君の答えはどう? 俺と付き合ってくれる?」
「・・・はい」
彼の情熱的な告白が私の心に最後のくさびを打ち込んだ。
こうして私は西岡君改め、リョウ君と交際した。
リョウ君は約束を守り、夜光に対する嫌がらせをやめてくれた。
最初の返事はなし崩し的な部分があったことは認める。
・・・でも、彼と同じ時間を過ごしているうちに、彼の優しさやたくましさを見せつけられ、私はどんどんリョウ君を好きになって行った。
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