第21.3話 After the Festival -後の祭り- 3
控室に戻ってくるや否や、香坂はスマホを手に取り勢いよく操作し始める。
ぼんやりとその様子を眺めていた戸松は、いつの間にか自分の携帯画面の通知欄に香坂の名前があることに気づく。
『もう少しだけ時間を頂戴。気持ちの整理がついたら、こっちから必ず連絡する』
『分かった。待っているよ』
戸松が香坂へ突きつけようとする答えは決まっており、彼女が気持ちの整理をしようが実際のところ意味はないものの、香坂が自分と正面から向き合うための儀式と割り切り、了承する旨返信する。
香坂の顔色は先刻よりかは幾分かマシになっており、紗枝の立ち回りが上手かったことが伺え、思わず感謝の念を飛ばす。
周りのスタッフの撤収準備が落ち着いたころを見計らい、不在の田中に代わりバラシへ向けての口火を切る。
「すみません、田中さんは急ぎ上への報告しなければならないのことで、先にこの場を離れています。みなさん撤収の準備も終わっているようですし、今日はこれで解散となります。私は先ほどいろいろ語ってしまったので、最後にKYUTEの皆さんで何か話したいことがあればお願いします」
戸松からの促しに4人は顔を見合わせ、新垣が一歩前へと歩み出る。
「みなさん、今日は本当にありがとうございました。この数か月間に渡っていろいろと頑張ってくださった中、ちゃんとした結果を出せずに申し訳ございません」
4人が深く頭を下げ、控室は一瞬の静寂に包まれる。
「もしこの場にまた来ることがあるならば、今度こそ笑顔で終わりを迎えられるよう、これから懸命に努力します。まだまだ至らない私たちですが、これからもよろしくお願いします」
アイドルとしての矜持がそうさせるのか、最後は前向きな言葉が新垣の口から発せられる。
自然とスタッフから拍手が沸き上がり、戸松も思わず両の手を打ち鳴らす。
(俺も頑張らなきゃな……)
波乱含みのフェスは皆を絶望の淵へと追いやったものの、この時ばかりは戸松も決意を新たに、彼女らの魅力を高めるために次はどんな曲を作ればいいのか思考をフル回転させていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます