第20.2話 フェス2
KYUTEの出番まで3時間を切り、本番へ向けての最終確認や、衣装やメイクの準備が本格始動する。
戸松も紗枝を残して関係者席を離れ、彼女らのもとへ向かう。
KYUTE関係者のために割り当てられた部屋へそっと入ると、4人は真剣な面持ちで振付の確認を行っている。
「おはようございます。戸松さん、今日はよろしくお願いしますね」
皆の邪魔にならないよう、一段落したところで挨拶をしようかと考えた矢先、戸松の姿を視認した新垣が動きを止め頭を下げる。
種田や須川が後続で挨拶をしていく傍ら、香坂も形ばかりの会釈をするが、戸松と視線がかち合うや否やすぐに顔を逸らす。
相も変わらず香坂の行動原理を図りかね戸松は若干のいら立ちを覚えるが、そんな香坂を正攻法で追いかけず、姉におんぶ抱っこな自分を棚上げしていることに気づき自嘲する。
(……こんな不毛なやり取りも今日でおしまいにしよう)
そう心に刻み、再び始まった4人の練習風景を眺める。
4人がフォーメーションの確認を行っているさなかも、ステージ上の演奏や歌声、歓声は部屋にも届き、プレッシャーとなって4人とスタッフへのしかかる。
「ははっ……。さすがにこれは中々にメンタルにきますね。このアウェーの中、いったいどれだけの人が私たちを応援してくれるんでしょうか」
漏れ出るステージの熱気にあてられ、種田がいよいよ弱音を吐露してしまう。
「そんなのほとんどいないって最初から分かっているでしょ。それでも、私たちはやるしかないのよ。現状、ごり押しでねじ込まれたアイドルとしてしか見られていないんだから、実力を見せつけてねじ伏せるしかないの」
香坂が言葉では容赦なく切り捨てるが、その両手は固く握られており、自身も不安を懸命に打ち消そうとしているのが見てとれる。
これほどまでにアイドル活動に矜持を抱いているにも拘わらず、戸松のこととなった途端そのプロ根性が霧散する点を咀嚼できず、戸松は鬱屈とした気分となる。
あれよこれよと準備をしているうちに、いよいよ出番間近となり田中が出番に向けての鼓舞の言葉を発する。
「さて、いよいよ本番だ。今回のステージがお前さんたちにとっても高い壁であることは俺も十分に承知している。それでもここまで頑張ってくれたこと、本当に感謝してる。精一杯パフォーマンスしてきてくれ」
田中の言葉に、4人は神妙な面持ちで頷く。
「俺からは以上だ。とまっちゃんからも一言言ってやってくれ」
田中に促され、戸松も慌てて紡ぐべき言葉を頭の中で組み立てる。
「えーっと、とうとう本番を迎えるだけになりました。いろいろと細かいところまでうるさくディレクションしてきましたが、懸命についてきてくださりありがとございました。あとはステージで最高のパフォーマンスを披露するだけです。最初は会場の反応が芳しくないと思います。だからこそ、そんな観客を実力で圧倒するのは気持ちがいいと思います。皆さんの圧巻のパフォーマンス、見せつけてきてください」
4人を見渡すと、銘々が戸松を見返してくる。
戸松へ向けられる視線には香坂のものも含まれており、この時ばかりは思わず戸松も彼女へ向けて頷きを返してしまう。
「KYUTEの皆さん、ステージ袖までお願いします」
誘導スタッフが迎えに上がり、戸松たちは4人が控室から出ていくのを見送る。
「あぁ、とうとう本番だな。あの子たちの前じゃ言えないが、ずっと胃がキリキリしっぱなしだわ。ホント早く終わってほしいけど、仮に大コケしたら上への説明も考えなきゃだし、受難は続くばかりってな……」
「なんとも世知辛い話ですね……。尤も、自分もKYUTEの成否がキャリアに直結するんで、他人事とは言えないのがなんとも……。彼女たちは実力も十分ですし、資金もあるんですから、もう少しうまくプロモートすれば順風満帆に人気アイドルの地位を獲得できたはずなんですけどね」
二人してため息をつくが、出来ることはKYUTEのステージ成功を祈ることばかりであった。
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