第17.2話 すれ違い(後半)

「あのさ、姉ちゃん……。しずくとの橋渡しを姉ちゃんにお願いしたいっていうのは事実なんだけど、実のところホントに話したい内容って、俺とのかかわり方を見直してほしいってことと、立ち居振る舞いを改めてほしいってことなんだよね」

香坂を憎からず思っている紗枝に橋渡しを頼むからこそ、本当のことを伝えるのが誠意であるとばかりに、戸松は自身の意図を伝える。

「どういうこと?」

「俺に関することとなると、しずくの周りへの態度や言動が不自然になっているみたい。実際、俺たちが昔付き合ってたことが惟子さんにバレた」

紗枝が目を見開く。

「……うわー、ゆいっちにバレたかー」

流石の紗枝も事態の深刻さにため息をつく。

「まぁ、あの娘も結構鋭いところあるしねぇ。……あ、そういえば今度ゆいっちと飲む約束をしてるんだった。次の飲み一緒に来る?ついでにしずくちゃんも招集しちゃおうか」

戸松の暴露を消化しきれない紗枝は、例のごとく軽口へと逃避する。

「姉ちゃん、冗談のセンスが壊滅的だよ」

「……だね。で、現時点でバレているのはゆいっちだけなの?」

「多分」

「……そう。なら、傷が浅いうちに処置するのは大事だね。さんざん揶揄ったり煽ったりした私が言うのはアレだけど、このタイミングでスキャンダルが持ち上がるのがヤバいってことは外様の私でもわかるしねぇ……」

紗枝の神妙な顔は崩れることなく、頭の中で最適解を延々模索していることが戸松にも見て取れる。

「そう、しずくはKYUTEのアイドルで、俺はその音楽プロデューサー。それ以上でもそれ以下でもあってはならないんだよ。特に俺はこれが飯の種だし、行きつく答えは決まっているんだよ」

無理やり口角を上げる戸松に、紗枝はいたたまれない表情をする。

「……トモの決断にどうこう言うつもりはないよ。あるべき論から言えば、それは当然の帰結とも言えるし。……で、私はしずくちゃんとトモが二人で話す機会を作ればいいの?」

「そうしてくれると嬉しいかな。ただ純粋に身の振り方を改めてくれ、で済むならメールでもいいんだけどね。こればかりはしずくの気持ちもあるし、すごくデリケートな話だから直接話さないと……。尤も、そう考えること自体俺のエゴかもしれないけど」

「分かったわよ、他ならぬ弟の頼みだし協力するよ。とりあえず招待枠確保できたら教えてね」

「ありがとう、姉ちゃん」

二人してため息をつきながら笑い、しれっと紗枝が冷蔵庫から取り出してきた缶ビールのタブをそれぞれ持ちあげ、そっと突き合せた。

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