Heart Hurt-心臓の傷-

@second2

プロローグ

雨が降っていた。

その男以外に、人の影は見当たらない。

男は自分の腹を撫でた。

もう何日もまともな食事をしていなかった。辺りを見渡したが、雨を凌げそうな場所は無かった。

次第に気力を無くした男は、路傍の壁に背を凭れかけ、あぐらをかいて地に尻を下ろした。冷たい水の感触が身を凍えさせた。

視界がぼやける。

既に手の感覚が消え始めてきている。

男は空を見上げて、何かを待った。

雨が止むのを待ったのか、それとも誰かが助けに来るのを待ったのかは、今となっては誰も知るよしもない。

何も来ないことを悟った男は、視界を戻した。

すると男は、狭まる視界の中に、動く影を見つけた。

その影は、男の元へと近づくと、すぐ隣に腰掛けた。

「なあ、あんた誰だ。」と声をかけようとしたが、唇が震えただけで何も言えなかった。

「その体力じゃもうしゃべれないだろう。

無理をするな。」

と、影は言った。

影は続け様に、「お前、まだ生きたいか?」

と発したので、男は首を縦に振った。

影は微笑み、カバンの中から液体の入った瓶を二つ取り出した。少し大きかった。

「力を与えてやる」

促されるままに2本のうち1本を口に含んだ。

「2本目は、お前がすべきと思ったとき使え。

その液体は、お前に全て賭ける。必ず世に役立てろ。」

影は微笑み、どことも知れない場所へ立ち去っていった。

視界の上端に映る雨は、先ほどより弱くなっていた。

そして男は立ち上がった。

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