第61話 腹割って話そうとしたら衝撃の回
「俺、賢太郎と付き合ってるよ。つまり恋人」
相川の反応は思った以上に大きかった。薄々勘付いているんじゃないかと思っていたのに、あんまり驚いた顔をするもんだからこっちが何か不安になってくる。
「嘘だろ……」
「嘘じゃ無いよ。気付いてたんじゃないのか?」
「お前が賢太郎の恋人な訳ない!」
何故そう言い切れるのか。俺は痛む首をグイッと動かしてじっと相川を見つめた。その口から漏れる言葉を聞き逃さないように。
「何でそう思うんだ? 俺が薬局で何買ってたか知ってるんだろ?」
そうだ、あの時俺が潤滑ゼリーとゴムを買いに行った時に相川は俺が何を買ったか気付いていたからあんな言葉を言ったに違いないんだから。
――「お前みたいな奴に色目使われてヤろうって迫られたら、純情な賢太郎は断れないんだろうなぁ」
「あれは……、お前があの人の代わりになってるからだろ」
「あの人?」
「お前の姉貴だよ。文化祭で話してただろ」
(姉ちゃん? 何でここで姉ちゃんの事が出てくるんだ?)
あぐらをかいて座り込んだ相川は、さも悔しそうに握り拳を握って唇を噛んだ。俺には相川がそうする意味が理解出来なかった。
「あのさ、何で姉ちゃんが出てくるわけ?」
「お前、そんな事も知らずに賢太郎と……⁉︎」
「だから、そんな事ってどんな事だよ⁉︎」
大きな声を出すと身体中が軋むように痛んだけど、相川の声につられるようにして思わず大きな声を出してしまった。訳の分からない事を言われている事が、思いの外不安になっているのかも知れない。
「賢太郎がずっと好きだったのは、
ガツンと頭を殴られた気がした。相川の泣きそうな顔が、どうしてか辛そうにその事実を告げる表情が胸に刺さったからだろうか。あまりの衝撃にまた失神するかと思った。
(賢太郎がずっと好きだったのは姉ちゃんだって?)
強く唇を噛み締めて身体を震わせる相川の前で、俺は情け無く大の字で寝転がっている。枯葉のベッドは柔らかくて気持ち良いけど、とにかく身体中を包む強い痛みが無理矢理にでも意識をはっきりさせる。
「俺は、賢太郎を信じてるから」
「お前、馬鹿だろ。賢太郎の事を知らないクセに。アイツはずっと小さい頃から、自分の部屋にお前の姉貴の写真を飾ってるんだよ!」
「写真……」
「七夕飾りの前で、賢太郎とお前の姉貴が映った写真を、大事に大事に飾ってるんだからな!」
ああ、そうか。相川は事情を知らないから、あのフリフリのワンピースを着た俺を姉ちゃんだと思っていたんだ。それで文化祭で姉ちゃんを見て驚いた顔をした事も、何か様子がおかしかったのも頷ける。
(それでも、この相川の態度はきっと……)
「そうだったのか。それで、何で相川はそれを俺に教えるんだ? 補欠ってそういう意味だったんだな。俺が姉ちゃんの補欠だって。それなら黙って笑ってたらいいだろ?」
ちょっと意地悪かなと思ったけど、それでも相川の本音を聞きたかった。そうすればきっと、俺は相川の事が好きになれる気がする。
「宗岡があんまり一生懸命だから。きっと賢太郎はお前の事を、悪いと思いながらも姉貴の代わりにしてるのに。お前、本当に馬鹿みたいだろ」
「相川っていい奴なんだな」
「お前、本物の馬鹿だろ! いい奴どころか、俺は賢太郎の事を小学校の頃から、高校で突然仲良くなったお前なんかよりずっと先に好きだったのに全然相手にされなくて……」
(そっか。相川も賢太郎の事が好きだったのか)
「だけど身代わりにされてる補欠のお前よりはマシだって自分に言い聞かせて、いつも笑ってたんだからな!」
相川はその整った顔をくしゃっと歪ませて今にも泣きそうな顔をしている。それでもすごくイケメンだなぁとつくづく思った。それに、自分の言葉で俺が傷付くと思って泣いているんだ。
「高校に入るより前、賢太郎は相川にヒカルの話をした事はなかったのか?」
「ある訳ないだろ。俺は小学生の頃からずっと賢太郎と一緒だったけど、お前の話なんか聞いた事ない!」
賢太郎、当時のお前の中で俺は完全に女の子だったんだもんな。だからって、少しくらい話してくれててもいいと思うけど。
「じゃあ、あの写真立ての子の話は?」
そう俺が尋ねると、相川はもはやイケメンとは言いづらい程に涙と鼻水をぐちゃぐちゃにした顔で声を振り絞る。
「昔から賢太郎が優しい顔で話すのは、あの写真立ての子の事ばっかりだよ!」
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