第38話 心強いダイという親友の回
「ヒーカールー! おっはよ!」
「ダイ、おはよ」
翌日の日曜日は、朝早くからダイが俺の家に置きっぱなしにしていた漫画を取りに来ることになった。まだ母さんも仕事に出掛けていない朝八時に玄関のインターホンが鳴って、扉を開ければ私服姿のダイが立っていた。
「これからどこか行くのか?」
「んー、社会人の彼女んち。ヒカルんちから持って帰る漫画を彼女んちに持って行こうと思ってさ」
「何だそれ。急に取りに来るって言うからびっくりしたよ」
ダイは賢太郎と違ってカジュアルな格好が多くて、今日もパーカーにブルゾン、ショルダーバッグという出立ちだった。漫画を持ち帰る用に大きめのトートバッグも持って来ている。
「昨日の夜賢太郎から突然DMが来て。『ヒカルの部屋に私物置きすぎ。お前の部屋じゃないんだぞ』って怒られたー」
あの賢太郎がそんな事を言ったなんて、ちょっと意外だった。確かにダイの漫画が多い事に少し嫉妬してたけど、それ以後特に何も言わなかったから。本当は賢太郎の気持ちを汲み取って、俺からダイに言わないといけなかったのかな。
「ご、ごめんな。昨日賢太郎が来てたから……」
「まあな、お前らは付き合い始めたばっかだし。お互いの事が大好きだから仕方ないよな! 別にいいけど、俺は寂しいぞー」
目と口を横に細めて人懐っこい笑顔を浮かべたダイは、揶揄うようにそう言うと早速部屋のあちこちにある漫画を集め始める。
「なぁ、ダイ。俺、記憶戻ったんだよ。お前にも迷惑かけてごめんな」
そう切り出すと、漫画をバッグに詰めていたダイがガバッと振り向いて驚いた顔を向けた。いつも飄々としているダイの珍しい表情を見て、思わず吹き出す。
「ご、ごめん。あんまりダイがビックリした顔をするから……っ。おかしくて……っ」
「いや、だってさー! ヒカルが前世だとか何とか言い出して、俺どうしようかと思って内心マジで焦ってたんだからな! かといって無理に思い出させたらアレだし……」
やっぱり俺の親友はめちゃくちゃいい奴だ。ダイが困った時には必ず駆けつけてやろうと、そう改めて思った。
「ありがとな、ダイ。それにしても随分前から賢太郎と俺の事話してたんだって?」
「そうそう、始まりは中学の時で。当時の彼女と牛丼屋で牛丼食ってたら賢太郎も男友達といてさ。『賢太郎じゃん!』って話し掛けたんだよ」
まさか牛丼屋で再会してたとは知らなかったけど、ダイはしょっちゅう賢太郎の通ってた中学校からほど近い店に行ってたからあり得る話だ。
「それにしても、また牛丼かよ。しかも彼女連れて……」
「まあまあ、それはいいよ。それでDMするようになって、賢太郎がヒカルの事ばっかり聞いてきてしつこくてさー」
「……何て?」
そう尋ねると、ダイは面白い物を見つけた時みたいに目をキラキラさせて口元はニヤリと悪党のような笑みを浮かべている。
「『ヒカルは元気か?』『今は男の格好をしているのか?』『付き合ってる奴はいるのか?』『俺のことは話しているか?』とか、他にも色々だよ。そりゃあもうしつこいくらいに質問攻め!」
(賢太郎、これはもうバレても仕方ない)
「そうなんだ……」
「そうだよ。それで俺は賢太郎がヒカルの事を本気で好きなんだって知ったんだよ。まあ、俺も保育園の頃は可愛いヒカルちゃんを女の子だと思って好きだったりもしたんだけどな」
「えっ⁉︎ いや、保育園の頃のダイは全然違うクラスだったし仲良くなかっただろ?」
保育園と小学校はダイとそんなに仲が良かった訳ではなかったから驚く。俺も何となくダイの名前を聞いたことがあるなぁくらいのもんだったから。
「だって有名だったぞ? ゾウ組さんの可愛い可愛いヒカルちゃん」
「マジか。全然知らなかった」
「そりゃあヒカルちゃんに近付こうとしても、いっつも賢太郎がお姫様を守る
そうだったのか。そういえば自由時間はいつも二人で行動してたなと思い出す。気付けば二人でいたからおかしいと思わなかったけど、賢太郎がそう仕向けてたなんて知らなかった。
(当時は自分が賢太郎を振り回してるつもりでいたけど、実は賢太郎が俺を囲ってたのかな)
勝手な想像だけど、それだけで急にカァーッと顔が熱くなってくる。同時に起こった胸の疼きは、不快なものではなかった。
「それにしても、賢太郎の執着にはびっくりだよな。あんな小さい頃からずっとヒカルの事好きなんだから。当のヒカルは看護師さんだの先生だのにうつつを抜かしてたのにさ」
「それは……!」
「ま、これからは俺もあんまりヒカルにベタベタしないように気をつけないと、賢太郎に怒られるな」
そう言って笑うダイはきっと俺からそれを言わさないように、先に言ってくれたんだろう。賢太郎の性格はダイの方が良く知ってるみたいだし。
「また賢太郎と三人で遊ぼうよ」
「やーだよ! 俺は男といるより今は彼女といる方が良いんでね。ま、たまには遊んでやるけど」
そんな事を言いながら、ダイは俺の背中をバンバンと叩いて帰って行った。
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