第3話 親友の成田大輝の回
部活見学の期間も終わり本格的に入部出来るようになると、俺はすぐに山岳部の顧問へ入部届を出しに行った。
昼休みに職員室で話をした顧問は、新卒の頼りなさそうな雰囲気の女教師と、優しそうな中年のおばちゃん教師、それとゴリラみたいな筋肉のおっちゃん教師の三人だった。
「なかなか部員が増えなくて寂しかったから嬉しいわ! キツイと思うけど、頑張ろうね!」
「はじめは基礎練習ばかりで大変だけどね、頑張りましょう」
「新入部員が毎年ごっそり辞めるくらいにはハードだからな。頑張れよ」
初っ端から三人の教師によって口々に脅されたら、運動があまり得意ではない俺は何だか少し怖くなる。
(いや、それでもきっと楽しいはずだ)
山道をみんなでワイワイ登って景色の移り変わりと絶景を楽しめる部活。仲間と励まし合って山頂に辿り着いた時の達成感は、きっと得難いものに違いない。
そう自分を奮い立たせつつ浮かんだ不安を打ち消す。笑顔で元気よく教師達に向かって返事をしたら、引き戸をガラガラっと閉めて職員室を後にした。
「なぁヒカル、マジで山岳部入ったの?」
俺が教室に帰るなり席に近付いて来るのは、茶髪のツーブロックショートにフープピアス、ブレザータイプの制服を着崩した一見近づき難そうに見える幼馴染。
「うん、ダイは?」
「俺が部活なんか入ると思うか?」
「思わない」
「だろ?」
保育園からはじまり、小中学校も一緒だった幼馴染の
保育園と小学校まではお互いの存在を知ってる程度の浅い付き合いだったが、中学の時に同じクラスになってからというもの、見た目はチャラいが話上手で根が優しいダイは俺の親友だ。
「そういやヒカル、
「……佐々木、……賢太郎?」
「いや、知らないならいいよ。そいつもさ、山岳部に入るらしくて」
「へぇ……。さすが顔が広いな、ダイは」
俺が心底感心してそう言うと、ダイは一瞬眉間に皺を寄せ、薄い唇をへの字にして何かを堪えるような表情になる。気に触ることを言ったつもりはなかったけれど、ダイがそんな顔をする事は珍しいから少し気になった。
「まあな」
だけどそう答えた後にはいつもの飄々とした表情に戻っていたから、さっきのは俺の見間違いだったのかも知れない。
ダイは一緒に漫画を読んだり、ゲームをしたりする仲間でもある。
女子と遊ばない日はしょっちゅう自宅のアパートにも遊びに来るから、うちの母さんや姉ちゃんとも仲が良い。
生粋の
「それにしてもヒカル、お前すっげぇ鈍臭いのに、山岳部なんかに入って本当に大丈夫か? スポーツは全滅だろ? 良くあのお母さんが許したな。特に、山登りなんて……」
心配そうに俺の顔を覗き込むダイは、やっぱり優しい奴だ。俺は先日の嬉しい買い物を思い出して思わず笑みが漏れた。
「姉ちゃんが、母さんを説得してくれたみたいだ。この前は、入学祝いにってマウンテンパーカーも買ってくれたし」
「そっか……。それなら良かったな」
ダイは不安そうな顔色を少し明るくした。考えている事が分かりやすい表情は、裏表が無くて安心できる。
「他のスポーツと違ってボールも使わなければ全力で走ったりもしないから大丈夫だよ。それに、山登って景色のいいところで活動するとか最高だろ」
「ふぅん……、そんな時間あったら俺は女と遊んでる方が楽しいけど。まぁ気をつけて頑張れよ!」
「おう」
右手を上げてニカッと明るい笑顔を俺に向けたダイは、またクラスの男女が八人ほど集まる騒がしい輪の中へと戻っていった。
入学してすぐから髪型や制服の着こなしがちょっと目立つダイは、特に女子に人気だった。
女子ってやつは真面目で面白みのない奴よりも、話し上手でちょっとヤンチャな奴の方が、どうしてもかっこよく見えるらしい。
そこに些細なところに気付いて優しいところのあるダイの性格も相まって、前からダイの周りには常に男女の友達が絶えない。
俺はダイみたいにたくさんの女子に囲まれたりはしないけど、それなりに気の合う友達も増えて、始まったばかりの高校生活を十分に楽しんでいた。
今日は新入生がそれぞれ希望する部活に本格的に参加出来る日。
(山岳部には、俺以外に新入部員が何人か入ったかな?)
「佐々木 賢太郎……か。どんな奴なんだろう」
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