第11話 帰宅
和也は受付で、カードをかざした。これにより下校の通知が親にいく。
玄関を出ると、エレベーターに乗った。
それは途中の階で止まり、“K”のマークのついたリュックを背負った同じくらいの子どもが乗ってきた。
このビルは様々な塾が入っている。“K”のマークのカワイも三大進学塾の1つだ。
エレベーターを降りて、塾ビルから出ると多くの車が止まっており、親らしき大人が携帯電話を見ながら立っていた。
和也はそこをすり抜けると、キョロキョロをすると見知った青い車があった。車に駆け寄ると助手席の扉を開けた。すると、運転席に座っていた母が「おかえり」と優しく出迎えてくれた。
頷きながら扉をしめて、シートベルトをした。母はそれを確認するとエンジンをかけた。
数分で自宅についた。
和也が手を洗っているうちにテーブルには夕食が準備されていた。彼がそれを食べている間に母は和也の塾の鞄をチェックした。
中から、今日やった宿題を見ると目を細めた。
(全部、あっているだろ)
和也は得意げな顔をしながら食事を終えると、箸をテーブルに置いた。皿の上には野菜が半分以上残っていた。
「野菜も食べなさいよ」
「えー、いいよ。別に」
母はテキストを手にすると、それをコピーした。コピーしたテキストに修正テープをつけると再度コピーした。
和也は母の行動の意味が分からずにぼーっと見ていた。
母はコピーを持ってくると、テーブルのあいている所に置いた。
「カズ、これやって」
そう言うと母は、和也の食べ終わった食器を片づけ始めた。
和也は「えー」と不愉快そうな顔をしながらコピーが置いてあるところに座った。
それを見て唸った。
「これ一回やった奴じゃん」
「そー。今日やったでしょ。だったら、すぐに終わるでしょ」
母がキッチンで洗い物をしながら言った。和也は眉をよせコピーを見た。
一問目を見て彼は固まった。計算問題だが解答すべき場所が式の真ん中にある。さらに小数点の数字と分数の数字の両方が入っているのだ。
四則算がすべて入っている。
「……」
どうにもやり方がわからない。
「計算問題だよね。何、止まっているの?」
母の強い言葉がとんできた。和也は計算に戸惑い母の言葉に返事をすることができなかった。
「え? これできないの?」
母は、ため息をついて首を降った。そして、目の前に座ると、その問題のやり方を説明し出した。それがイラついた。
「まだ、やっている所なんだ」
「だだの計算に何分かけるき? その問題始めてから10分だよ」
「でも、もう少しなんだよ」
大きな声をあげると、母の顔は鬼になった。そして、耳が痛いほどの大きな声で「あんたのもう少しって何時間?」と言った。
和也はそれに頭きて、立ち上がると椅子を蹴り飛ばして部屋で風呂に向かった。
乱暴に扉を開けると「壊れる」と母の怒鳴り声が聞こえたが無視して脱いだ服を乱暴に洗濯機へ入れると浴室に入った。
「くそ」
浴室にあった椅子を蹴り飛ばすと椅子は浴槽にあたり倒れた。
いくら物にあたっても和也の気ははれなかった。
(あんなに勉強したのにまだやれっていうのか?)
乱暴に頭と体を洗うと勢いよく湯船にはいった。すると、水しぶきが飛び大量のお湯が流れていった。
温かい風呂にはいると気持ちが次第に落ち着いてきた。
すると、頬を赤くした貴也の事を思い出した。
“戒め、罰だよ”
彼の言葉を思だしたが意味がわからなかった。貴也は今回のテストも校内一であり、学校のテストは常に満点だ。
(俺も悪くねえが、たまに満点逃す)
教師ウケはいまいちだが女子にモテる貴也が自分を“凡人以下”と言うのは嫌みにしか聞こえなかった。しかし、あの時の彼の表情は本気で言っているように思えた。
(わかんねぇー)
自分が貴也の能力を持っていたら幸せだと思い、それに満足していない貴也をワガママだと思った。
ドンドンと風呂の扉を叩く音がした。
「いつまでも風呂に入ってないで勉強しなさい」
和也の返事を待たずに、母の怒鳴り声が聞こえた。それを聞くと頭が痛くなった。
母の後ろの方で「かぁたん?」と可愛らしい声が聞こえた。母の後ろにいる小さな影。
妹の佐和子(さわこ)だ。
「さわちゃん」
母はデレデレの甘ったるい声を出すと佐和子を抱き上げる影がうった。そして、あやしながら脱衣所から出ていった。
「はぁ」
和也は佐和子に感謝しながらシャワーを浴び、浴室から出ると、洗濯機の上にあったタオルで体を拭くと寝間着を着て歯磨きをすると自室に行った。
部屋に入ると、塾で使った鞄があり座卓の上には夕食後に母に出されたテキストのコピーと鉛筆が置いてあった。
(すぐやれってか?)
和也は時計見た。
20時30分。
まだ、寝るには早いなと思い座卓の前にある座布団に胡座をかいて座った。テキストのコピーを見て、後ろにゴロリと倒れた。
首を動かすと、本棚にある漫画が目に入った。
(あれ、おもしーだよな)
和也は漫画に手をのばすと、転がったまま読み始めた。何度読んでも引き込まれるストーリーに夢中になり次の巻、次の巻と読んでいった。
笑い転げふと、時計が目に入った。
23時。
「あ、やべなぁ」
和也は漫画をしまうと起き上がり、鉛筆を持った。しばらく考えていると、睡魔が襲ってきて座卓に頬をつけた。
(眠い)
ベットに入った。しかし、さっきまでいた睡魔がどこかに行ってしまった。
天井を見た。
(明日も塾かぁ)
和也は勉強が嫌いではない。だから、塾にも嫌いじゃない。しかし、やりたい時にやりたい教科がしたい。
(受験なぁ)
周りが必死で勉強しているのはわかるし、自分もそれなりにやっていると思っている。
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