第6話 ゼリータイプの栄養ドリンク

貴也はリビングに入ると電気をつけた。するとテーブルの上にあった、塾から送られてきた模試の結果が目に入った。


第一志望の合格確率の事の赤丸がついていた。そして、そのそばに第一志望校の過去問がおいてあった。

更にその近くに夕食がおいてあった。


“第一志望校、合格確率50%”


「あーー」


貴也は大きな声を上げ、過去問を壁に投げつけた。更に皿の上のあった夕食を流しに全て捨てた。


イライラとして、キッチンを殴りつけるとジーンと手が赤くなった。その、手を見て貴也はため息をついた。


気持ちを落ち着かせて、流しに置いた皿を洗うとタオルの上に置いた。

冷蔵庫からゼリータイプの栄養補給ドリンクを取り出して飲みゴミ箱に捨てた。


10分程度シャワーを浴びると着替えて、落ちていた過去問を拾い、玄関に置いてあったランドセルと塾用の鞄を持ち自室の机向かった。


しばらくして玄関で、ガタガタと言う音がした。


(帰ってきたか)


貴也が時計を見ると22時30分を過ぎていた。彼は勉強道具を片付けると歯磨きをしてベッドに入った。眠れないというのとはなく、目をつぶるとすぐに意識が遠のいたがここ数年、夢を見ていない。


翌日。


いつも通り目覚ましが鳴る前に目が覚めた。時計を、見るともうすぐ5時になる。


貴也はベッドを出ると顔を荒い、歯磨きをした。それから、着替えなど身仕度を整えるとキッチンに行き、冷蔵庫からまたゼリータイプの栄養ドリンクを出し飲むとゴミ箱に捨てた。

テーブルの上に朝食があることに気づくと、流しに捨て皿を洗った。


自室に戻ると机に座り勉強を始めた。机の上置いた、過去問が目にはいり頭痛がした。


貴也は頭をふり、テキストに視線を戻し鉛筆を動かした。


7時50分になると机の上を片付けてランドセルを背負い部屋を出た。冷蔵庫によるとゼリータイプの栄養ドリンクを飲んだ。


学校に着くと、廊下で教員の鈴木あい「おはようございます」と笑顔で挨拶をすると鈴木も笑顔で挨拶を返した。


「江本君に忠告です。信頼関係がないのに正論を押しつけると反発をかいますよ」

「そうですか」

「もう、少し周りを見たらどうですか?」

「そうですね」


(時間の無駄)


貴也が適当にながすと、鈴木は小さく息をはいた。彼と別れて教室に入り準備が終わると担任教師の小谷野が入っていた。


学校はホームルームから始まる。朝は連絡事項以外に小谷野が何か話をしていたが貴也は朝の勉強でつまずいた問題を思い返していた。その時ふと塾で泣いていた憲貞のことを思い出した。


手にあった傷も思い出した。


(なんで、こんなに気になるんだ)


天王寺憲貞なんて名前は塾の成績表で見たことない。だから、下位クラスなのだと思った。


小さく息をはいて黒板を見ると授業が始まっていた。“道徳”は貴也の最も無意味に思っている授業だ。他者に世話にならず、基本的に自分のことは全て自分でやればいい。必要なら、金を払えばいいと考えていた。


貴也はパラパラと教科書のページをめくった。


“謙虚な心”


そこには“寄り添うこと、分かり合うこと”と書かれていた。


“私は私はと思う心”


“相手が許せないと思う心”


“私のことをわかって欲しいという心”


そこで、また憲貞の手の傷を思い出した。理由は色々推測できるが本人に聞かないかぎり想像の領域を出ない。


(あそこで泣いているのは助けを求めてる?)


本来、そんなことをしている暇があるなら勉強すべきだと思うが気になって仕方かなった。


授業に全く身が入らず、あっという間放課後となった。

和也たちが、サッカーにいくと言う話をしていた。


(そういえば、同じ塾に通っているが叶とはあったことないな。まぁ、クラスが離れているからかな。天王寺とと同じクラスなのかな)


ことあるごとに憲貞が頭をよぎった。


学校を出ると、叶の母が校門あたりをウロウロとしているのを見つけた。

貴也は素通りしようとしたが、目があってしまった。


(失敗した)


案の定、和也の母は笑顔で貴也に近づいてきた。簡単な挨拶をすると“学校はもう終わったのか?”“和也はどこにいるのか?”とか質問していた。


貴也は知っている事をそのまま伝えると、和也の母は鬼のような形相になった。


(ひっ)


その恐ろしさに貴也は顔を青くすると、すぐに和也の母は謝罪して笑顔になった。貴也に挨拶をすると「今日はサボらせないわよ」と物凄い低い声で言った。


和也が悪い事は分かっているが、あの母の顔みたら同情した。

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