第5話 上位クラス

掃除が終わるとホームルームの時間になった。宿題と翌日の予定を小谷野が話すだけであるため、すぐに終わった。


貴也は学校が終わるとすぐ学校を出て、自宅のマンションの玄関をランドセルについている鍵で開けた。

玄関に塾用の鞄がある。ランドセルと置くと、鍵を塾用の鞄につけてから背負った。


玄関に鍵をかけると、マンションを出た。

しばらく歩くと見たことがある年配の女性が近づいてきた。


「江本君?」

「はい」


見覚えがあったが誰だか分からず、貴也は迷いながら返事をした。それが相手に伝わり「ごめんなさいね」と言われた。


「私、叶和也のお母さんよ」

「あ~」


言われてみれば、なんとなく顔が似ており貴也はすぐに納得した。


「江本君はもう学校から帰ったの? 和也はまだなのよ。何時に終わったの?」

「そうですか。15時30分には終了していますよ」

「えー? いつもその時間?」


貴也は頷くと和也の母は困った顔をした。


「本当にあの子には困るわ。江本君は優秀で素晴らしいわ」

「いえ」

「和也は言っても勉強しないし、本当に中学受験する気あるのかしら」

「……」


貴也は答えに困り、塾に行くことを伝え話を切り上げた。

塾に着くと、まだ授業まで時間があるため自習室に入った。すると、一番前の窓際の席に昨日泣いていた少年がいた。


(この自習室を使うって事は6年なのか)


小学校ではまだ5年であるが、塾は2月に受験があるため新学期は2月だ。だから貴也はすでに6年になっていた。


授業が始まる17時まで集中して勉強をした。

15分前になると事務員が授業が始まると声を掛けてくれるので、その声を聞いてから教室に向かう。


教室行くと9名の生徒が全員着席していた。


貴也が所属するクラスは上位クラスSである。中間クラスのAと下位クラスBがある。

各クラスの下位2~3名が組分けテストで毎に入れ替わっている。


貴也が一番前の席に座ると、隣に座っている生徒が声をかけてきた。


「また、江本君一番だね。本当、君だけは席が変わらないね」

「え? 岡田君もいつもそこに座ってるよね?」


授業の準備をしながら答えた。すると、岡田光一(おかだこういち)は眉を下げた。


「いやいや、前回、僕は3位だったから森田さんが座ってる席にいたんだよ」


光一は自分の逆隣の生徒を指差した。指を差されて森田日向子(もりたひなこ)は不満足な顔をした。


「指を指さないで。岡田君、次はその席を返して貰うからね」

「なんでだよ。江本君の席狙いなよ」


光一が貴也の方を指さすと、日向子はため息をついた。


「えー、天才には勝てないよ」

「別に天才じゃないよ」


日向子の言葉に、貴也がちいさな声で返した時、講師が入ってきて授業が始まった。学校のようにホームルームなどなく講師が目視で人数を確認すると授業が始まる。


そもそも、入り口に出席確認するカードリーダーがあるため出席をとる必要はない。


授業は前回の内容を全て理解出来ている前提で進む。そこため、Sに上がったばかりの生徒は苦労する。最難関校を目指すSはAとは全く違う雰囲気だ。


授業が始まると講師の声しか聞こえない。講師が質問した時だけ、生徒が答える。


学校のように授業中ふざけたり寝ていたりする子どもは一人もいない。


この空気を貴也はとても気に入っていた。


10分のトイレ休憩を挟み授業は20時45分まで行われた。授業後、貴也はいつも質問をするため21時ぐらいに教室をでる。


貴也はエレベーターに向かったが、昨日の少年の事を思い出して階段で下りた。


(いるわけ、ないよな)


あまり期待ぜずに下りると“いた”。昨日と同じ場所にうずくまっている。


貴也は昨日と同じように、彼の隣に座ると声を掛けた。


「え……」


彼は驚いていた。


「君、名前は?」

「へ……、あ、天王寺憲貞(てんおうじのりさだ)」


憲貞は不安そうに答えた。


(すげー立派な名前だ)


「天王寺君はここでなにしてんの?」

「……別に」


憲貞の鞄から携帯の音がした。すると、彼は真っ青な顔をして階段を駆け降りていった。その時、袖がめくれ手の傷が見えた。


(手の傷、増えてたような)


貴也も階段を降りて塾ビルを出ると迎えのための車やら大人がたくさんいた。それをすり抜けて、一人自宅向かった。

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