第3話 学校は眠い

翌日、学校で授業を受けながら昨日あった少年の事を考えていた。通っている塾は小さく3クラスしかないが、あまり他人を気にしない貴也には覚えがなかった。


そのうち、うち眠くなりうつらうつらと船を漕ぎ始めた。


「江本」


突然、授業をしている担任教師の小谷野(こやの)に名前を呼ばれ彼は目を開けて、頭を上げた。


「いくら出来るからといって学校の授業をないがしろにするのは違う」

「そうですか」


貴也は面倒くさいと思った。教科書に書いてある事をわざわざ、何時間も掛けて説明する意味が分からなかった。


各自読んでくればより深い授業ができる。


学校に来るのが時間の無駄さえ思った。


「前出てきて説明しろ。お前、宿題も提出してないだろ」

「あんなの、時間の無駄なので」


貴也は立ち上がりながら、言った。小谷野の眉がピクリと動いたが彼は何も言わず黒板に向かう貴也を見ていた。すると、「生意気だよな」と言う小さな声が教室のどこからか聞こえた。貴也はそんな声を無視して黒板の前に立った。


黒板に書いてあったのは少数点以下がある数字同士ののわり算であった。それを筆算でやる説明だ。


わり算の筆算を使う式を見て貴也はため息をついた。余りが必要な問題ならともかくそうでないのから、わり算の筆算は非効率だ。


貴也は少数点以下の数字がある数を全て分数にしてかけ算で計算した。その作業だけで、クラスの人間の眼が点になったため少数点以下のある数を分数にする方法を説明した。

それから、わり算を分数のかけ算として計算する方法を伝えた。


(暗算でできる事の説明って面倒くさいな)


全て説明し終わると、数名の女子は目を輝かせていたが男子らはいい顔していかなった。小谷野は「あっている」と言って目を細めた。


(そんな顔すんならやらせんなよ)


貴也はまたため息をついてチョークを置くと席に戻った。


「確かに答えは合っているが、これでは勉強ならない。効率ではなく今は過程を学ぶ段階なんだ。それを皆には分かってほしい」


そう言って小谷野は少数点以下のある数字同士をわり算の筆算を使い説明を始めた。


現在、問題に出てくる数字は全て割り切れるためこの方法でも問題はない。


小谷野の説明が終わると丁度授業が終了して掃除の時間となった。貴也は教室内をはいていると数名の女子が近くにきた。 


「江本君って何で中学受験するの? そんなに頭がいいなら高校受験でもいいんじゃない?」

「そうだよ。一緒の中学にいこうよ」


女子がキャッキャッと言った。貴也は掃除の手を止めるとにこりと笑い女子の方を見た。


「確かな君たちと離れるのは寂しいよ。けど、俺は将来のために頑張りたいんだ」

「すごーい」

「ほんと。後一年ちょっとでお別れなんて寂しすぎるぅ」

「卒業しても、絶対連絡してね」


キャーキャーと叫ぶ女子に、貴也は優しく頷くと女子は嬉しそうに笑っていた。


「ヒューヒュー、女に囲まれていいなぁ。勉強しなくてもできる天才は違うよな」


(天才じゃない。勉強はしてる)


教室の端にいた複数の男子が声を上げた。それに女子は「なにあれ」「最悪」と口々に男子達を否定する言葉を並べた。


「あはは、男の癖に女に守られてやんのー」


ヘラヘラと馬鹿にしたように笑う男子達に女子らはご立腹だ。


(面倒くさい。時間の無駄だよな)


貴也は小さく息をはいた。


「ありがとう。皆の優しさに心が救われるよ」

「そんなー」

「江本君のためなら私」


鬼のような形相で男子たちを見ていた女子たちが一気に顔赤く染めた。


「なんだよ。気取りやがって」

「天才はちがうよな」

「あ、なんだっけ」

「“コレハ ブンスウ デ ケイサン スル”」 

「ヤベー、和也(かずや)似ている」


和也は授業中の貴也の言葉を悪意を持って真似した。それを周りの男子が大笑いした。

貴也はため息をついて、彼らに取り合わず女子と共に掃除を再開した。


更に男子たちがヤジを飛ばしていると、教室と扉が開いた。

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