引っ越し先のアパートの住人が俺以外全員女性でした。ハーレム生活が始まるかと思いきや、みんなクセが強すぎて大変です
さばりん
第一章
第1話 引っ越し
八月下旬、まだまだ三十度以上の真夏日が続く中、外ではアブラゼミの大合唱が鳴り響き、真夏の猛暑の暑さをさらに助長している。
そんな中でも、作業着姿でせっせか荷物を運び終えた引っ越し業者の従業員は。爽やかな笑顔で挨拶をしてきた。
「搬入は以上になります」
「ありがとうございました」
伝票を貰い、引っ越し業者のスタッフは車へと乗り込み、エンジンをかけたかと思うと、すぐさま去って行ってしまう。
引っ越し業者の搬入が終わり、
まだ冷房もつけていないサウナ状態の蒸し暑い部屋の中で、
「よしっ! 早速部屋のレイアウトを整えますか」
ここは、大学から徒歩圏内にある築四十年ほどの二階建てのアパート。
とある事情で前住んでいたところを退居することになり、大学近くにあるこのアパートへ引っ越すことになったわけだが、今までの事は忘れて、心機一転頑張ろうと思っている。
家賃は光熱費込みで月五万円弱。
外装は多少塗装などが剥がれ落ちて年季が入っているものの、内装はリフォームが入っており、外観の見た目とは違って新築のような綺麗なフローリング式の1Kの間取りになっていた。
各階三部屋ずつで、恭平を含めて六部屋しかない。
ちなみに恭平の部屋は、一階中央の102号室だ。
早速意気込んで段ボールに入った荷物を整理しようとしたところで、ピンポーンとインターフォンが鳴った。
「はーい」
玄関の覗き穴から外を見れば、そこには爽やかな花柄のワンピースに身を包んだ、艶のある黒髪ロングの女性がオドオドとした様子で立っていた。
恭平が恐る恐る扉を開くと、女性がびくっと身体を震わせる。
「あのっ……平野恭平さんでしょうか?」
「はい、そうですけど……」
訝しむ視線を恭平が送っていると、妙齢な女性はぺこりと頭を下げた。
「わっ、私! このアパートの大家で、お隣の103号室に住んでる
「あっ、大家さんでしたか! 初めまして、平野恭平と申します」
女性が隣に住む大家さんであると分かり、恭平が明るい声で律儀に頭を下げると、大家である斎藤さんは慌てて手をふるふると振った。
「そんなにかしこまらなくていいですよ! 今日からお隣同士になるわけですから!」
「そうですか? では斎藤さん。今日からよろしくお願いします」
「あのっ……できれば私の事は、気軽に
「えっ、でも……」
「お願いします!」
大きく頭を下げて必死に懇願してくる斎藤さん。
恭平は困惑しつつ頭を掻く。
「分かりました、では朋子さんとお呼びしますね」
「はいっ! ありがとうございます!」
顔を上げた朋子さんの嬉しそうな笑顔が眩しすぎて、直視できずに思わず視線をそらしてしまう。
「えっと、ごめんなさい、ご挨拶もまだで……。それで、何か要件があったんですよね?」
「あっ、そうなの! 一応大家として、アパートのルールを軽く説明しようと思ってて、今時間ってあったりするかな?」
「あっ、はい。いいですよ」
「それじゃあ、はいこれ。この地区のゴミ出しの曜日とかが書いてある表ね。集積所は道路沿いに設置してある集積箱があるから、そこにゴミ袋をまとめて入れておいてくれればいいから」
「分かりました」
という感じで、いくつかの説明を受け終わり――
「って感じなんだけど、何か質問あったりするかな?」
「いえっ、大丈夫です」
「よかったぁー。私、良く他の人から口下手って言われるから心配だったの」
「そうなんですか? 凄くわかりやすかったですよ?」
「本当に?お世辞じゃない?」
「お世辞じゃないですよ。俺が通ってる大学教員の先生より分かりやすかったですし。朋子さん、教える才能あるんじゃないですか?」
「やだーもうーっ! そんなに褒めないで!」
朋子さんは相当嬉しかったようで、両手を頬に当てながら身体をくねくねさせている。
「それじゃあ、俺はそろそろ荷物整理をしようと思うので」
「手伝おうか?」
「大丈夫です。大家さんも色々忙しいでしょうから、お気になさらず」
「実は、大家って肩書だけで実際意外とやることなくて暇だったりするから、全然こき使ってもらって大丈夫だよ! それに私、片づけには自信あるから」
朋子さんは腕を曲げ、手伝う気満々といった様子で言ってくる。
「お気持ちは本当に嬉しいんですけど、まだ会ったばかりですし、そこまでされてしまうとこっちの気が引けると言いますか……」
「あっ、そっか。私そんなことも気付けずに……ごめんなさい」
「いえいえ、謝らないでください。お気持ちは本当に嬉しいですから、お気になさらず」
「それじゃあ、荷物整理大変だろうけど頑張ってね! 何かあったら103号室に居るから、いつでも呼んで頂戴」
「はい、分かりました」
お互いにお辞儀してから、隣の部屋へ戻っていく朋子さんを見送る。
「あっ、そうだ!」
すると、朋子さんは急に立ち止まり、くるりとその場で踵を返すと、にこりと柔らかい笑顔を向けてきた。
「言うの忘れてたけど、ここのアパート、恭平君以外みんな女の子が住んでるの。だから、色々と男手が必要な時に頼る時があるかもしれないけど、よろしくね♪」
「はい、分かりました」
「それじゃ、またねー」
元気よく手を振りながら、朋子さんは今度こそ103号室へと戻っていた。
えっ……ちょっと待って。
このアパート、恭平以外女性しか住んでないだと⁉
つまり、恭平の両隣も上の部屋もそのお隣さんも全員女性。
こんな女性に囲まれた一人暮らし生活が果たして現実にあっていいのだろうか?
「ここは、もしかして天国だった⁉」
どんな人たちが住んでいるのだろうと期待に胸を膨らませつつ、恭平は段ボールから荷物を取り出して、荷解きを進めていく。
この時恭平は完全に浮かれていたけれど、これから出会うとんでもない女性たちと繰り広げられる数々の出来事に巻き込まれるとは、まだ知る由もない。
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