Confetti
Cleyera / くれーら
第1話 僕と妹
「おにーちゃんと結婚する!」
あどけない少年少女が、いつかの日に交わした約束。
「結婚」――小さい頃の僕たちにとって、憧れにしては大きすぎるものだった。
妹がどれだけの責任を持って言ったのかは分からないけれど、少しだけ大人だった僕にとっては、かなりの重みを持っていたのだろうと考える。
僕はまだ、約束を忘れられていない。
勿論、当の妹は忘れてしまっているはずだ。別に責めたりしない。記憶が忘れられるのは誰にだってある話だし、幼い記憶なら尚更のことだ。
今日、妹が他の誰かのお嫁さんになる。
何か、どこか……不思議な感覚がする。
◇
何をやっても人並みだった僕に比べて、妹は何をやってもセンスに溢れていた。ピアノだって妹の方がすぐに上手くなったし、逆上がりだって妹が先だった。褒め言葉に乗っかかり優等生として迎えられた。
「ヒヨリちゃんは凄いのにね〜」、先生の言葉は小学生だった僕の心をズタズタに引き裂いて、壊れたまま今に至る。いつか僕は妹に、妬みの感情を覚えて生きてきた。
高校時代もその構図は変わらなかった。写真部だった僕と引き換えに、妹は女バスのエースで他校にも名を馳せた。ユニフォーム越しに揺れるポニーテールに幾多の強者たちが卒倒したと言う。僕に集った男は口を揃えてこう言った。
「ヒヨリちゃんの写真ある?お前ってさ、あの兄貴だろ」
「バカヤロー。これは会報のやつ」
「頼むって、なあ。……そうだ、千円やるから!どうだ?」
「金欠なのは認める」
「じゃあもう一枚、これなら?」
「……そこまでして欲しいもんかよ、今度な」
彼らは野球部だったり陸上部だったり……体育会系の田舎臭いマセガキ共。暗室で陽の当たらない生活に充足していた、僕からすれば遠い場所に居る人。陽の当たる人たちは人を選ばないで、分け隔てなく話しかけてくるからムカつくんだ。
受験も就職も、そして結婚も全部遅れをとった。妹は綺麗にストレートで突破した。第一志望の私大に現役で合格、サークルも留学も十分に謳歌して、今では上場企業の入社5年目。貯金も溜まってきて社内恋愛が見事に成功、とね。
アホらしい。
元から妹との仲は良く無かったし、殆ど連絡も取っていなかった。犬猿の仲ではない。小学校高学年になると、男女はお互いに意識をして世界の棲み分けを始めたりするけれど、丁度その流れに沿って生きてきた。
兄貴面をしたことは数えるくらいで、小さい頃の話。周りの評価は家庭にも直結していて、実力主義の中で僕の居場所は――不等号の尖っている方、それがお似合いだった。
妹が誇らしげに僕を見下したかというと、まあ見向きもしなかった。女友達とのお喋りが大好きで他の男との恋沙汰はあれど、僕を与太話に付き合わせる気もない。蚊帳の外に追いやられていた。
大学に行くと同時に妹は家を出て、それっきりだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます